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2020.8.13

真面目な茹でガエルになっていないか

遠藤功氏の心に響く言葉より…

近年、大企業の経営者たちから「VUCA」という言葉がさかんに聞かれるようになった。

「VUCA」とは、「Volatility」(変動)、「Uncertainty」(不確実)、「Complexity」(複雑)、「Ambiguity」(曖昧)という4つの単語の頭文字からとった略語であり、「先がまったく読めない不安定、不透明な環境」を言い表している。

私たちは「VUCA」という新たな混迷する環境を頭では理解し、備えていたつもりだった。

しかし、私たちの認識は、とんでもなく甘かったと認めざるをえない。

「VUCA」とは「まさかこんなことに…」という事態が起きることなのだと思い知らされた。

中国に端を発する新型コロナウィルスは、わずか半年ほどで世界を震撼させ、経済活動や社会活動をいっきに停滞させ、世界中の人々の生活をどん底に陥れようとしている。

「つながる」ことや「ひとつになる」ことの恩恵ばかりを享受していた私たちは、その裏で広がっていた「感染」というリスクの怖さを、日々身をもって体験している。

パンデミック(感染爆発)のインパクトはとてつもなっく大きく、長くなることを私たちは覚悟しなければならない。

経済の低迷は、企業の倒産、失業者の急増、自殺者の増大、食糧問題の深刻化など社会不安を高め、世界は混迷を深めている。

コロナのインパクトは広範囲に及び、複雑で、根深い。

しかし、コロナ後に確実に起きる変化を、ある程度読み解くことはできる。

世界経済は大きく縮む。

この先においても、「70%エコノミー」が妥当な予測だろう。

それぞれの会社は、まずは「縮んだ経済」に合わせて、身を縮めるしかない。

生き残るためには、痛みを伴う施策を断行せざるをえない会社も出てくるだろう。

だが、コロナ・ショックは日本にとって、必ずしもマイナスばかりではないと私は考えている。

むしろ、平成の「失われた30年」という「緩慢なる衰退」から脱却し、力強い再生へとシフトする千載一遇のチャンスである。

中途半端に沈んだまま、もがきつづけるより、どん底まで沈んだほうが反転力は強くなると私は期待したい。

それだけの回復力、潜在力が、この国にはあるはずだ。

そして、それは日本企業が競争力を取り戻し、業績を回復させるだけにとどまらない。

むしろ、経済的な側面よりも、日本人の価値観や働き方を大きく変え、日本という国が真に豊かで、幸せな国になるための好機だと私は捉えている。

コロナ・ショックは、ビジネス社会における「プロの時代」の幕開けになる。

減私奉公(めっしほうこう)的なサラリーマンは淘汰され、高度専門性と市場性を兼ね備えた「プロ」が活躍する時代へと突入する。

競争は厳しくなるが、「個」の活性化なしに、この国の再生はありえない。

そして、働き方においては「レスの時代」の幕開けとなるだろう。

「ペーパレス」「ハンコレス」にとどまらず、「通勤レス」「出張レス」「残業レス」「対面レス」、さらには「転勤レス」といった新たな働き方がこれから広がっていく。

こうした新たな動きによって、無用なストレスは軽減され、私たちは人間らしさを取り戻していく。

その結果、経済的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさも手に入れることができるはずだ。

コロナという「目に見えない黒船」は、この国を再生させる大きなきっかけになりえる。

私たちは「コロナ・ショック」を、自らの手で「コロナ・チャンス」へ変えなければならない。

『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』東洋経済


遠藤氏は本書の中でこう語る。

『生命力が問われるのは、個人も同じだ。

これまで以上に、勝ち組と負け組の差が大きくなり、格差は拡大するだろう。

経済同友会代表幹事である櫻田謙吾さんは、コロナ以前から「真面目な茹(ゆ)でガエルになっていないか」と警鐘を鳴らしつづけている。

「よい大学に入ったら、良い会社に入れて、一生安泰に過ごせるという人生モデルはすでに崩壊しているのに、多くの人はまだこのモデルが続いているような幻想を抱いている。

それが、『茹でガエル現象』です。

本当は間違っていることを、疑うことなく正しいと思い込んで、一生懸命にコツコツやっているので、私は『真面目な茹でガエル現象』と呼んでいますが、日本企業の惨敗の歴史の根底には、こういう誤った現状認識があると思います」

コロナをきっかけに日本企業は大きく生まれ変わろうとするだろう。

変わらなければ生き延びていけないのだから。

経営者たちは本気だし、必死だ。

問題は社員たちだ。

会社が生まれ変わろうとしているのに、社員たちの意識や行動が変わらなければ、その社員は間違いなく「お払い箱」になる。

いまの日本企業に、それを躊躇している余裕などない。』

遠藤氏は、これから「食える人」と「食えない人」の差は、「代替可能性」と「付加価値の大きさ」の二軸で分類できるという。

『一番生き残る可能性の高い人は、代替可能性が低い職業で、付加価値が高いプロ人材。《スター》

二番目は、代替可能性が高い職業で、「付加価値」が高いプロ人材。《サバイバー》

三番目は、代替可能性が低い職業で、付加価値が低いアマ人材。《コモディティ》

四番目は、代替可能性が高い職業で、「付加価値」が低いアマ人材。《ユースレス》

たとえば、AIという先端技術に精通する高度技術者は、少なくともこれからしばらくは間違いなく「スター」だ。

経営コンサルや公認会計士等は、AIには提供できない付加価値の高いサービスを提供できれば、「サバイバー」としてやっていける。

AIなどの先端テクノロジーに絡んでいても、並みの技術や経験しかなければ、「コモディティ」として生き延びていくのがやっとかもしれない。

そして、運転という仕事に従事している人は、自動運転が普及すれば「ユースレス(使えないやつ、価値のない人)」になってしまう。』

厳しい話となってしまうが、これはコロナが起きたから状況が激変したわけではない。

コロナが起きて、単に、変化が加速しただけだ。

こういう変化の流れは、コロナ前からずっとあった。

今は、失われた30年を脱する絶好のチャンスのとき。

「真面目な茹でガエルになっていないか」、自らに厳しく問いたい。



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