2020.7.26 |
|
問わず語り |
|
美術教師、末永幸歩(すえながゆきほ)氏の心に響く言葉より…
あなたは美術館へ行ったとき…
あなたは「絵を見ていた時間」と、その下の「解説文を読んでいた時間」、どちらのほうが長かったですか?
おそらく、「ほとんど解説文に目を向けていた」という人がかなり多いはずです。
私自身、美大生だったころはそうでした。
美術館を訪れることは多かったにもかかわらず、それぞれの作品を見るのはせいぜい数秒。
すかさず作品に添えられた題名や制作年、解説などを読んで、なんとなく納得したような気になっていました。
いま思えば、「鑑賞」のためというよりも、作品情報と実物を照らし合わせる「確認作業」のために美術館に行っていたようなものです。
これでは見るはずのものも見えませんし、感じられるはずのものも感じられません。
とはいえ、「作品をじっくり鑑賞する」というのは、案外けっこう難しいものです。
じっと見ているつもりでもだんだんと頭がボーっとしてきて、いつのまにか別のことを考えていたりもします。
いかにも想像力を刺激してくれそうなアート作品を前にしても、こんな具合なのだとすれば、まさに一事が万事。
「自分なりのものの見方・考え方」などとはほど遠いところで、物事の表面だけを撫でてわかった気になり、大事なことを素通りしてしまっている…そんな人が大半なのではないかと思います。
でも、本当にそれでいいのでしょうか?
「かえるがいる」
岡山県にある大原美術館で、4歳の男の子がモネの《睡蓮(すいれん)》を指差して、こんな言葉を発したことがあったそうです。
その場にいた学芸員は、この絵の中に「かえる」がいないことは当然知っていたはずですが、「えっ、どこにいるの」と聞き返しました。
すると、その男の子はこう答えたそうです。
「いま水にもぐっている」
私はこれこそが本来の意味での「アート鑑賞」なのだと考えています。
その男の子は、作品名だとか解説文といった既存の情報に「正解」を見つけ出そうとはしませんでした。
むしろ、「自分だけのものの見方」でその作品をとらえて、「彼なりの答え」を手に入れています。
ビジネスだろうと学問だろうと人生だろうと、こうして「自分のものの見方」を持てる人こそが、結果を出したり、幸せを手にしたりしているのではないでしょうか?
じっと動かない1枚の絵画を前にしてすら「自分なりの答え」をつくれない人が、激動する複雑な現実世界のなかで、果たしてなにかを生み出したりできるでしょうか?
私が一教員として学校教育の実態を見てきたかぎりでは、絵を描いたりものをつくったりする「技術」と、過去に生み出された芸術作品についての「知識」に重点を置いた授業が、いまだに大半を占めています。
「絵を描く」「ものをつくる」「アート作品の知識を得る」…こうした授業スタイルは、一見すると個人の創造性を育んでくれそうなものですが、じつのところ、これらはかえって個人の創造性を奪っていきます。
このような「技術・知識」偏重型の授業スタイルが、中学以降の「美術」に対する苦手意識の元凶ではないかというわけです。
『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』ダイヤモンド社
末永幸歩氏はさらにこう語る。
「すべての子どもはアーティストである。問題なのは、どうすれば大人になったときにもアーティストのままでいられるかだ」
これはパブロ・ピカソの有名な言葉です。
ピカソがいうとおり、私たちはもともと、《睡蓮》の中に「自分だけのかえる」を見出すようなアーティスト性を持っていたはずです。
しかし、「アーティストのままでいられる大人」はほとんどいません。
おそらくは「13歳前後」を分岐点として、「かえるを見つける力」を失っていきます。
さらに深刻なのは、私たちは「自分だけのものの見方・考え方」を喪失していることに気付いてすらいないということです。
話題の企画展で絵画を鑑賞した気分になり、高評価の店でおいしい料理を味わった気分になり、ネットニュースやSNSの投稿で世界を知った気分になり、LINEで人と会話した気分になり、仕事や日常でも何かを選択・決断した気分になっている。
しかし、そこに「自分なりの視点」は本当にあるでしょうか?
いま、こうした危機感を背景として、大人の学びの世界でも「アート的なものの考え方」が見直されています。
一部ではこれは「アート思考」という名称で呼ばれています。
ピカソのいう「アーティストのままでいられる大人」になるための方法が、ビジネスの世界でも真剣に模索されているのです。
「アーティストのように考える」とはどういうことなのでしょうか?
結論からいえば、「アート」とは、上手に絵を描いたり、美しい造形物をつくったり、歴史的な名画の知識・うんちくを語れるようになったりすることではありません。
「アーティスト」は、目に見える作品を生む出す過程で、次の3つのことをしています。
1. 「自分だけのものの見方」で世界を見つめ、
2. 「自分なりの答え」を生み出し、
3. それによって「新たな問い」を生み出す
「アート思考」とは、まさにこうした思考プロセスであり、「自分だけの視点」で物事を見て、「自分なりの答え」をつくりだすための作法です。
もう少し柔らかくいえば、「あなただけのかえる」を見つける方法なのです。
(以上、本書より抜粋)
本書にもあったが、現代はVUCA(ブーカ)の時代だと言われる。
VUCAとは、「Volatility」(変動性)「Uncertainty」(不確実性)「Complexity」(複雑性)「Ambiguity」(曖昧性)だ。
これだけ先の見えない時代では、誰もが正解を見つけることは難しい。
ビジネスにおいても、かつての成功事例を調べ、それを踏襲するというやり方はほとんど通用しない。
そして、このコロナ禍のように、だれもが予測しないようなことが起こる時代だ。
だからこそ、誰のものでもない、モノマネではない、自分独自の生き方や考え方を見つけ出すしかない。
これは、個人でも会社でも同じだ。
そのために必要なのが「アート思考」。
自分の人生というキャンバスに自分のアートを描く…。
アート思考で新たな人生を切りひらきたい。 |
|
|