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2020.6.11

すべてのものには神が宿る

弁護士、湯川久子氏の心に響く言葉より…

昔、何気なくテレビのアニメーションを見ていたとき、私が惹きつけられたのが『くつやのマルチン』という物語でした。

原作はトルストイの童話です。

マルチンは老いた靴屋で、一人ぼっちで寂しく暮らしていました。

最愛の妻に先立たれて、息子と二人で暮らしていましたが、やがて息子も病気のために死んでしまいます。

マルチンは生きる望みを失い、友だちが祭りに誘っても行く気にさえならず、引きこもっていたのです。

ある日、訪ねてきた牧師から「古い聖書を綴(と)じ直して欲しい」と頼まれます。

その夜、聖書を読みながら眠ってしまったマルチンに、神からのお告げがあったのです。

「明日おまえを訪ねるからね」と。

翌日、マルチンは朝早く目を覚ましました。

いつもと気分は違っています。

神様を出迎えるために一生懸命部屋を掃除していると、外に雪かきの掃除人を見かけて温かい紅茶をご馳走しました。

掃除人はとても嬉しそうでした。

しばらくすると、赤ちゃんを抱いた婦人が真冬の寒さの中、コートも着ないで歩いていました。

マルチンは家に婦人を招き入れ、暖炉で温まってもらい、パンとシチューを食べさせ、自分の肩掛けをあげたのです。

すっかり薄暗くなったころ、マルチンの店の前をりんご売りのおばあさんが通りかかり、カゴを肩から下ろして座り込みました。

そこへ、貧しい少年がやってきてりんごを奪って逃げたのです。

マルチンは、大急ぎで少年をつかまえておばあさんには子どもをゆるしてくれるように頼み、子どもにはりんごを一つ買って手渡しました。

結局、神は現れませんでしたが、自分が世界で一番憐(あわ)れだと思っていたマルチンは、もっとかわいそうな人がいることに気づきます。

そして、自分のような者でも、人にやさしくしてあげられることがわかり、何だか心の中がとても温かくなっていくのでした。

その日の夜、マルチンが椅子に座って聖書を開くと、神が現れて、「今日おまえが出会った者たちはすべて私だよ」と語るのです。

実は、この『くつやのマルチン』の原題は『愛のあるところに、神もある』というものです。

私たちが愛のある行動をとるとき、そこに神がおられるのだということを伝えています。

すべてのものを神を扱うように大切に扱えば、心豊かにあたたかい気持ちになれ、孤独や不幸な思いは消えてしまうのだということ。

それに気づいたマルチンは、本来のやさしくて活動的な自分を思い出し、親友と一緒に町のお祭りへと出かけていくのです。

私は、胸の奥がツンとするのを感じました。

人は、どんな目にあっても愛のある場所から再出発することができるのだと感じたからです。

『くつやのマルチン』には、多くの孤独な人たちが登場します。

雪かき掃除人、赤ちゃんを抱いた婦人、りんご売りのおばあさん、貧しい少年。

マルティンが失意のもとに閉じこもっていたときは、誰一人、マルチンの目には映らなかった人たちです。

そして、マルチン自身も、誰からも見てもらえていない存在だったのです。

孤独や死というのは、誰にとっても怖いものですが、もっと恐ろしいのは、存在を無視されながら生きるということ。

それは、生きながらにして死んでいるようなものです。

すべての人、すべてのものには神が宿るのだということ。

それらを大切に扱うことは、つまり、自分を大切に扱うことに等しいのだということ。

これは、日本には古くから伝わる八百万(やおよろず)の神の考え方に通じるものがあります。

愛を持って行動していけば、そこには必ず、つながりが生まれ、孤独から抜け出すことができます。

『ほどよく距離を置きなさい』サンマーク出版


面倒なこと、困難なこと、難しいこと、嫌なこと…

これらはすべて「神さまからのプレゼント」だと思えば、逃げずに立ち向かうことができるかもしれない。

なぜなら、「神さまは、なぜこのプレゼントを自分にくれたのだろう」と考えるからだ。

「これにはきっと深い理由があるに違いない」、「神さまが理由もなしにこんなことをするわけがない」、と思ったとき魂の修行への道を一段進んだことになる。

人のことを気づかうこと。

人に温かな言葉をかけること。

人に親切にすること。

愛ある行動を起こすこと…

すべてのものには神が宿っているのだから。



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