2020.6.4 |
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「好き」という、とてつもないエネルギー |
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つんく♂氏の心に響く言葉より…
「シャ乱Q」というバンドでプロデビューしたとはいえ、CDはまったく売れず、デビュー2年で早くも引退の危機にさらされていたのです。
すべての家具が手の届く位置にあったその狭い部屋で、あるとき、一つの詞が浮かんできました。
のちにミリオンセラーとなった「シングルベッド」がそれです。
有線放送で一番になる。
全国の有線放送で、「シングルベッド」が流れる。
CDができあがったとき、そんな妄想を頭に描きました。
それからほぼ毎日のように、全国有線放送会社に、「シャラ乱Q」のメンバー全員で、電話をかけまくったのです。
まず、メンバーの一人がレコード会社の社員の役になって、電話をかけます。
「〇〇レコードのAです。新人の『シャ乱Q』というバンドの新曲が先日、発売されたのですが、メンバーの者がぜひごあいさつさせていただきたいと申しておりますので、代わりますね」
「どぉもー、はじめましてぇー、福山雅治と同じレコード会社の新人『シャ乱Q』のボーカルのつんくでーす。といっても知らないですよねぇー。じつはミスチルと同期なんですよー。えっ、ミスチルは好き?マジで趣味がいいっすねぇ…」
こんなふうに軽い調子で切り出して心をゆるませ、世間話をしながら、有線放送の担当者に僕たちの名前を地道に売り込んでいったのです。
当時、プロデビューしたとはいえ、大した仕事もなかったので、時間だけはたくさんありました。
朝11時ごろから7時間くらいぶっ続けで、まるで営業マンのように、電話をかけまくる日々が続きました。
その思いが、有線放送の担当者たちに通じたのでしょうか、やがて、コンビニやスーパーで、喫茶店やレストランで、僕たちの歌が流れる回数がしだいに増えていきました。
そして、気がついたときには、百万枚以上のCDが売れていたのです。
僕は運よく、何度も何度も「一番になる」ことができたのです。
才能がなかったからこそ、有線放送会社に電話営業する労を惜しむこともありませんでした。
凡人だったからこそ、「一番になる人」と自分との違いを分析し、売れるための方法を研究することに力を注ぐことができました。
「仕事で人前に立つときには必ず、自分がしゃべる台詞(せりふ)を全部書いておけ」
みずからプロデュースしている新人はもちろん、仲よしの若手芸人にも、僕はこうアドバイスしています。
なぜそんな面倒くさいことをわざわざするのか。
それは、プロである以上、プロのトークで人を楽しませなければならないからです。
それができなければ、プロ失格。
だから、僕自身、テレビ番組に出演するときは、相手の質問を予想して事前にいくつものシミュレーションをしておきます。
こんな質問が来たときはこう答えようというように、質問に対して、答えを一つひとつ用意しておくのです。
短い時間に自分のいいたいことをいうにはどうすればよいか。
視聴者にも「ああ、こいつ、おもしろいヤツやな」とか、「歌番組とかの印象と違うじゃん」と思ってもらうには、何をどう答えればよいか。
当時の僕はいまほど冷静になる余裕はなかったのですが、十分にシミュレーションしていたおかげで、番組のなかにうまく溶け込んで、それなりの評価をしてもらったように思います。
もちろん、すべてがシミュレーションのとおり、進むわけではありません。
ところが、事前に準備しているかどうかで、とっさのときの対応力が、まるで違ってくるのです。
「モーニング娘。」のデビュー当時、彼女らが番組に出るときは、こんな質問が来たらたとえばこんなことを答えるようにと、メンバーの一人ひとりにアドバイスしました。
なぜなら、若い女の子は集まって話すと同じような言葉の繰り返しになりがちだからです。
たとえば「ディズニーランドに行ってどうでしたか」とたずねられて、「楽しかったです」「おもしろかったです」と、数人いるメンバーから同じような言葉が続いたとしたら、視聴者もきっとつまらなく思うはずです。
視聴者としては、「ミッキーがつまずいたんですよ!」とか、「お父さんがミッキーにからみすぎて、少し恥ずかしかった」というような話を聞きたいわけです。
彼女らにはそうった話ができるように(をするように)指導してきました。
昨日までふつうの女の子だった彼女らがお茶の間の人気者になれた理由の一つは、自然な笑顔で対応できたことが大きいと思います。
それができたのは、ライブ中のトークであっても、テレビのトークであっても、事前になんどもシミュレーションし、心に余裕をもたせていたからです。
とくにステージの場合は、歌の合間にトークをやりますが、何度も同じ話をするのなら、話を頭にたたき込んだほうが早いというものです。
事前に何度も練っておけば、話はどんどんおもしろくなっていきます。
なによりステージの上であせらない、あがらない。
スポーツ選手が本番で失敗しないため、また、あがらないために、何度も練習したり、イメージトレーニングしたりするのと同じです。
『一番になる人』サンマーク文庫
つんく♂ さんは、「得意」なことと「好き」なことは違うという。
「得意」とは、あることを自他ともにうまい、上手だと認めること。
そして、それは社会的に認められやすい。
「好き」には、感情がともなっている。
「好き」と「得意」を混同している人は意外に多い。
「得意」なことは、嫌いではないが、メシを食うのも忘れるほど好きかというとそれほどでもなく、ただ得意だっただけということが多い。
どんなに得意なことも、「好き」という感情にはかなわない。
ほんとうに「好き」なことに夢中になっているとき、人は時間を忘れ、至福の時間を過ごしている。
何かを好きになる。
その瞬間、人はそのことに関して、抜きんでた存在になる。
それくらい、「好きになる」という感情は、とてつもないエネルギーだ。
人から、「そんなアホな趣味」と笑われるようなものであっても、それが好きで好きでたまらないのであれば、それを続けるべきだ。
「さかなクン」は、子どものころから魚が好きで好きでたまなかったから、その魚の魅力を子どもたちに伝えることが職業となった。
しょせん、「努力」で出せるエネルギーは、「好き」で出せるエネルギーの比ではない。
「好き」がすぐには「得意」につながらなくても、それを捨てずにいれば、やがて「得意」を超えるものになっていく。
「一番になる人」は例外なく、「好き」をとことんきわめた人といえる。
「好き」という感情を自分の人生において最大限に引き出すことができるかどうか、それはとても大事なことだ。
「好き」というエネルギーには、みずからを動かし、そしてまわりさえも巻き込み、奇跡を起こす力が秘められている。
《以上、本書より抜粋》
SNS全盛の時代、かつては考えられないような職業が出てきた。
たとえば、芸人ひろしのソロキャンプ(ひとりキャンプ)だ。
ひとりでキャンプするのが好きで、それをYouTubeで流していたら、それだけで毎月食べていけるようになったという。
芸人のときより、収入が安定していて、しかも独自性がある。
「好き」を「得意」にしたいい例だ。
「好き」という、とてつもないエネルギーを「得意」につなげたい。 |
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