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2020.4.30

大事の思案は軽くすべし

明治大学教授、齋藤孝氏の心に響く言葉より…

《大事の思案は軽くすべし》(葉隠)

大きなことを決めるときは、むしろ軽くやれ

普段から覚悟を持って事に立ち向かっている人は、人生の大きな決断もサッと決めてしまう場合があります。

特に、財界トップにいる人たちは、ちょっとした立ち話で「じゃあ君に頼むよ」と簡単に仕事を決めることがあると聞きます。

長年積んだ経験に基づく直観力があるので、確信があるのでしょう。

私自身も、ある人から「真っ先に頭に浮かんだのは齋藤さんです」と言われて、仕事を引き受けたことがあります。

言われたとき、相手の気持ちを受けて立とうと思いました。

こうして仕事がさっさと進んでいくのです。

結婚も、人生の大きな決断でしょう。

大きなことだからと考えてすぎていると、そのうち列車が過ぎ去ってしまいます。

私の知り合いの女性は、男性からずっと「好きだ、結婚してほしい」と言われていたのに、そのときは結婚に気持ちが向かなかったために放っておきました。

しかし、いざ自分がある年齢になったとき「やっぱりあの人がよかったな」と思って連絡をとったら「つい先日、婚約が決まったんだ」と返事があったそうです。

結婚というのは常に時間に追われるものなので、いい人はどんどん相手が決まっていきます。

少しでも気持ちが向いたなら、サッと決めてしまうのも一つの方法です。

私はテレビのお見合い番組が好きなのですが、第一希望の相手がダメだった人の動きをいつも見ています。

第一、第二希望が叶わなくても、軽やかに第三希望を選んでいく人がいる。

望みのないところで頑張ってもしょうがないので、大事だと考えすぎず直観を生かして「この人だ」と思ったところでパッと決めるくらいが、ちょうどいいのかもしれません。

家を買うことや、結婚など人生の大事な場面では、あるところで決断をしなければいけないし、その基準があまり複雑すぎると決断できません。

考えすぎると決断できなくなるので、「縁を大事にする」と決め、流れを切らないことが重要です。

将棋の羽生善治(はぶよしはる)永世名人は、大きく物事を見る「大局観」ということを言っています。

直観的にこれがいいと思ったら、検証しながら前に進む。

そのために時間を使うと語っていました。

プロサッカーの選手が移籍を勧められるのは、「大事の思案」と言えます。

「どうしよう」と迷っても、サッと決めないと時間切れになることがある。

FCバルセロナは世界的に強いチームですが、「バルセロナ行きの列車は一生に一回しか停まらない」という名言があります。

来たときに乗らなければ、二度とチャンスはめぐってきません。

ノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンは、『ファスト&スロー』という本の中で人間の心理について書いています。

ファストとはファストシンキング、スローとはスローシンキングのこと。

ファストシンキングは、直感を生かした考え方です。

われわれは写真を見ると、その人が怒っているのか笑っているのか直感的にわかりますね。

これがファストシンキング。

一方、ゆっくり考えて分析して決めるスローシンキングもあります。

それを組み合わせるといいというのが、カーネマンの考え方です。

直感的によいと思うほうに行き、チャレンジしてダメなら戻ればいい。

失敗してダメならまた次を考えたらいいのです。

そういう意味で、大きなことを軽くすべしというのはよい考え方です。

『図解 葉隠―勤め人としての心意気』ウェッジ

「 大事の思案は軽くすべし」の後には、「小事の思案は重くすべし」という言葉がくる。

そして、「武士は何事も七呼吸で決断せよ」という。

およそ十数秒だ。

大事の思案を軽くできる人は、普段から、肚を練って、自らを高めている人だ。

大事は思わぬときにやってくる。

大災害だったり、今回のようなコロナ禍だ。

突然の災難や疫病にもうろたえないで、速やかに判断し決断できるのが、肚ができている人であり、覚悟ができている人。

また、ささいなこと、とるに足りないようなことという「小事」をおろそかにしたばかりに、屋台骨が傾いてしまうということはよくある。

「千丈(せんじょう)の堤(つつみ)も蟻(あり)の一穴(けつ)から」

という言葉の通り、大きくて頑丈な堤防も、蟻がつくった小さな穴から崩れることもある。

ほんのわずかな不注意や油断が、大きな失敗につながるという戒めだ。

だからこそ、常日頃、小事の思案は重くする必要がある。

その積み重ねが、非常のときの覚悟につながる。

覚悟ができれば、あとは、損得は関係ない。

自分の直感や縁のあるなしで考えずに決められる。

たまたま来た話(大事)や頼まれごとを、ニコッと笑って、「ご縁だから」「あなたに言われたらしかたない」「世のため人のため」と即断し、グズグズ言わずに引き受ける。

大事の思案を軽くできる人でありたい。



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