2020.4.6 |
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先生、ぼく、きょう生まれたんだよ |
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吉岡たすく氏の心に響く言葉より…
「先生、ぼく、きょう生まれたんだよ」
と、ミツオくんが、嬉しそうに話しかけてきました。
そこで、私が、「そう。ミツオくんも生まれたときは、ほんとうに小さかったんだろうな。それが、おとうさんやおかあさんのおかげで、こんなに大きくなったんだね。どれくらい重くなったのか、先生が、はかってあげよう」
と、言いながら、ミツオくんを抱きあげました。
ミツオくんは少しはずかしそうに笑っています。
それを見た子どもたちは、歓声をあげました。
そこで、私は、ミツオくんを抱きあげたまま、子どもたちに、
「これから、先生がミツオくんを抱いたままみんなの前を通るから、ひとりずつ、ミツオくんと握手して『おめでとう』を言って、お祝いしてあげようね」
と、話しますと、子どもたちは手をたたいて喜びます。
私は、ミツオくんを抱いて、みんなの前を通りました。
子どもたちは、ミツオくんと握手をして『おめでとう』と言いました。
そのたびに、ミツオくんは『ありがとう』とお礼をしていました。
みんな、ほんとうに嬉しそうでした。
私は全部の子どもの前を通ってから、ミツオくんを席まで、抱いていきました。
そして席におろして、私も握手をしながら「お誕生日おめでとう」と心から祝いました。
ミツオくんは顔をまっ赤にしていました。
そして、にこにこ笑っておりました。
そのあくる日、ミツオくんのおかあさんから、手紙をいただきました。
「ミツオは毎日学校から帰ってまいりますと、よほど疲れるのか、『ただいま』という声も聞こえないくらい小さい声です。
そして、座敷にあがってくるなりごろんと横になってしまいます。
ところが、きょうはずいぶんかわっていました。
『ただいま』という声も、びっくりするような大きな声です。
そしてハアハア肩で息をしながら、私のそばに走ってきて『おかあちゃん、ぼくね、先生に抱いてもろたよ』と申します。
そしてそのあと、座敷中をポンポンとびながら『先生に抱いてもろた、先生に抱いてもろた』と大はしゃぎです。
私まで嬉しくなってしまいました。
先生ありがとうございました」
この手紙をよんで、私自身驚きました。
何かなにげなく抱き上げたことが、ミツオくんにとっては、こんなにも嬉しいことであったとは思いもよらなかったのです。
私は手紙を何度もよみかえしながら、教室に行きました。
そして教室の中にはいりました。
すると、二三人の子どもが走ってくるなり、大きな声で、
「先生、ぼく、あさってやで。たのむよ。抱いてや」
「ぼくもやで」
と、言うのです。
誕生日の予告申し込みです。
その日から、私の学級では、その子どもの誕生日には、その子どもを抱きあげることになったのです。
『小さいサムライたち』PHP
今の時代は、学校で先生が、子どもを抱きあげる、さわる、というような行為はセクハラやわいせつ行為になってしまう可能性が高い。
まして、コロナウイルスが猛威を振るっている現在は、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を取らなければならないし、顔をマスクで覆わなければいけない。
今まさに、昔から良しとされていた、多くの価値観がガラッと変わってしまった。
ふれあい、ハグする、ハイタッチ、抱きしめる、握手をする。
そして、コミュニケーションにとって最も大事な笑顔もマスクで見えない。
これらは、自己重要感を高めるのにとても大事な要素だ。
自分はまわりから大切にされている、と。
これは、何も子どもたちだけの話ではない。
大人になっても、老人になっても、このことはとても大事だ。
だが、今は、仕方がない。
しかし、このコロナ騒ぎが収まった暁(あかつき)には、なんとしても、この人と人との温かなふれあいだけは忘れないでいたい。
ただ、先生が子どもを抱っこするというのはこれからも色々な問題で難しいとは思うが…
さまざまなコミュニケーションを通して、自分も人も、自己重要感を高める。
親子で、夫婦で、親しい人同士で、温かなつながりを持つこと。
とりわけ、誕生日はその絶好の機会だ。
誕生日は素敵な一日としたい。 |
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