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2020.2.22

鈍の魅力

渡部昇一氏の心に響く言葉より…

会社でも学校でも、何かと器用に立ち回る人というのはいる。

社内で大規模な異動があると小耳に挟めば、首尾よく行きたい部署の上司に取り入る、マスコミ関係に就職したければ、マスコミ業界に通じている教授のゼミに入ってコネクションづくりに励む、などである。

こうやって書いてみると、まるで彼らがずる賢いようだが、私はそういうやり方を非難しているわけではない。

自分の中で目指すものがあり、それに向かって努力しているのだから、それはそれで、成功するための一つの立派な方法だと思う。

ただ、ふとわが身を振り返ってみると、私はそういう器用さはまったく持ち合わせていなかったとつくづく思う。

そして、器用か不器用かは、成功するかどうかにそれほど深く関係していないと感じるのだ。

よく、成功の秘訣は「運・鈍・根」にあるといわれる。

「運」は運がよいこと、「鈍(どん)」は軽々しく動かないということ、「根」は根気よくやること。

だが、私の場合は、「鈍」が強かったのではないかと思う。

と言うより、動こうにも動けなかったと言ったほうが正しい。

山形は鶴岡の田舎からポンと東京へ出てきたわけだから、世間的なことはまるで知らなかった。

アメリカ留学ができなかったときも、悔しいのは悔しいのだが、器用に立ち回ることができないから、「まあ、このまま頑張って勉強を続けるかな」ということぐらいしか考えつかなかった。

おそらく器用な人ならば、ここでいろいろと動き回るのだろう。

教授にかけ合ってほかに留学の道を探るかもしれないし、研究者という道にさっさと見切りをつけ、大企業就職を目指すようになるかもしれない。

そいういうことをした人を私はたくさん見てきたが、うまく行った例は稀(まれ)のようである。

しかし、結果として私は「鈍」と構えていたことにより、アメリカ留学に勝る留学の機会を得ることができた。

器用に動き回っていたらどうなっていたかなど、今さらわかるべくもないが、少なくとも、器用に立ち回らなくてもチャンスを掴むことができたことは事実だ。

このように、頭がよく、利口に動き回れる人だけが成功するわけではないとは、私の経験からくる実感なのである。

『人生の手引き書〜壁を乗り越える思考法〜 (扶桑社BOOKS新書)』


行徳哲男師は、人間の魅力は「素・朴・愚・拙」の四つの言葉で表すことができるという。

素とは、飾らない魅力。

朴とは、泥臭い朴訥(ぼくとつ)とした魅力。

愚とは、自分を飾らずバカになれる魅力。

拙とは、不器用でヘタクソだが一途な魅力。

これらの要素は、みな「鈍」という言葉に置き換えられる。

小器用(こぎよう)でない魅力だ。

小林正観さんは、「強靭(きょうじん)な精神力」を持つには「ボーッとすること」だという。

「ボーッとする」とは、「鈍」であること。

「神経を張りつめて何ものをもはね返す」ことでも、「ガードすること」でもなく、「闘って状況を変えること」でもない。

だから、バカにされても傷つかない人、メンツやプライドを傷つけられても笑っていられる人が一番強いという。

そうすれば闘わずに済むからだ。

孫子の兵法に、「百戦百勝は、最善なるものにあらず」というものがある。

なぜ百回も戦うのか。

賢い武将は一度も戦わない。

本当に優れた武将とは、敵をつくらず、一度も戦わない人のことだからだ。

「根」とは、続ける力。

もくもくと、根気よく、ただひたすら続ける。

そうすると、「運」がやってくる。

まさに、元京大総長の平澤興氏が言う、「鈍・根・運」の順番で考えるとよい、ということと符合する。

鈍な人を目指したい。



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