2020.1.29 |
|
真に楽しむ者 |
|
致知出版社社長、藤尾秀昭氏の心に響く言葉より…
パナソニックの社名が松下電器だった時期、山下俊彦という社長がいた。
昭和52年、先輩24人を飛び越えて社長になり、話題となった人である。
素直、明晰(めいせき)なお人柄だった。
この山下さんが色紙を頼まれると、好んで書かれたのが「知好楽(ちこうらく)」である。
何の説明もなしに渡されると、依頼した方はその意味を取りかねたという。
この出典は『論語』である。
子曰(いわ)く、これを知る者は、これを好む者に如かず。
これを好む者は、これを楽しむ者に如かず。
(これを知っているだけの者は、これを愛好する者におよばない。これを愛好する者は、これを真に楽しむ者にはおよばない)
極めてシンプルな人生の心理である。
仕事でも人生でも、それを楽しむ境地に至って初めて真の妙味が出てくる、ということだろう。
ここでいう「楽」は、趣味や娯楽に興じる楽しさとは趣(おもむき)を異(こと)にする。
その違いを明確にするために、先哲の多くは「真楽(しんらく)」という言い方をする。
何事であれ対象と一体になった時に生命の深奥(しんおう)から湧き上がってくる楽しみが「真楽」である。
物事に無我夢中、真剣に打ち込んでいる、まさにその時に味わう楽しさが真楽なのである。
人生の醍醐味(だいごみ)とは、この真楽を味わうことに他ならない。
松下幸之助氏の言葉がある。
「困難に直面すると却(かえ)って心が躍(おど)り、敢然(かんぜん)と戦いを挑んでこれを打破していく。そんな人間でありたい」
困難に直面して一念が後退することなく、むしろ心が躍るというのは、その困難と一体になることである。
一体となって困難を乗り越える。
そこに言い尽くせない人生の深い楽しみがある。
そういう楽しみを味わえる人になりたいものである。
『長の十訓』致知出版社
プロのスポーツ選手や一流のアスリートが、試合に行く前に「楽しんできます」ということがある。
それを「不謹慎」だとか、「遊びではなんだぞ」と怒ったりする人がいる。
確かに、プロや一流のアスリートは観客を喜ばせることが要求される。
いただいているお金以上のパフォーマンスを上げられなかったら、すぐに首になってしまう厳しい世界だ。
もし、自分だけが楽しんでいるのなら、まわりは白けてしまい、あっというまにファンは離れていくだろう。
だが、それが「真楽」の心境だとしたら、競技に三昧(ざんまい)になることにより、困難に立ち向かう姿や、失敗さえも、見るものに感動を与える。
三昧とは、精神を集中して、一心不乱にそのことをすることだが、無我夢中に打ち込むことでもある。
人生の醍醐味は「真楽」を味わうこと。
真に楽しむ者でありたい。 |
|
|