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2019.12.2

リンゴの木を植える

藤尾秀昭氏の心に響く言葉より…

今年(令和元年)、日本は皇紀二千六百七十九年である。

海に囲まれた小さな島国が、さまざまな試練を経ながら高い民度と文化を備え、今日まで発展してきたのはなぜだろうか。

そこに盛衰の原理のヒントがあるように思われる。

例えば、伊勢神宮では、正殿をはじめ社殿のすべてを新たに造り替える式年遷宮が、二十年に一回行われてきた。

第一回の式年遷宮を行ったのは持統天皇。

戦国時代に中断されたことはあったが、以来千三百年、この行事は連綿と続けられている。

伊勢神宮だけではない。

全国でその地にある神社が地域の人々によって大事に護持されている。

これは世界の驚異と言っていい。

渡部昇一氏に伺った話である。

氏は若い頃、ギリシャのスニオン半島を二週間ほど旅し、ポセイドン神殿はじめ多くの遺跡を見た。

帰国後、石巻に行った印象が忘れられないという。

石巻には港を見下ろす丘に大きな神社がある。

その祭りを町を挙げて祝っていた。

海を祀(まつ)るのはギリシャも日本も同じだが、ギリシャの神ははげ山の中の遺跡と化している。

しかし、日本の神は豊かな鎮守の森に包まれて社に鎮守し、住民がこぞって祝っている。

「古代ギリシャ文化はもはや死んでしまったが、古代日本文化はいまもまさに生きているのです」

この事実は何を物語るのか。

ギリシャ神話は有名だが、神々の系譜は神話の中だけで完結、断絶し、いまに繋がっていない。

これに対して日本は、天照大神の系譜に繋がる万世一系(ばんせいいっけい)の天皇という具体的な存在を軸に、我われの先祖は目に見えないもの、人知を超えたものを畏敬し、尊崇する心を、二千年以上にわたって持ち続けてきた、ということである。

そしてこの民族の魂は今日もなお生き続けている、ということである。

目に見えないものへの畏敬、尊崇の念は、自らを律し、慎む心を育んでいく。

「心だに誠の道にかなひなば祈らずとても神や守らむ」という心的態度はこの国に住む人たちに共通した価値観となって定着した。

言い換えれば、私たちの先祖は「自反尽己(じはんじんこ)」に生きたのだ。

自反とは指を相手に向けるのではなく、自分に向ける。

すべてを自分の責任と捉え、自分の全力を尽くすことである。

そういう精神風土を保ち続けたところに、この国の繁栄の因がある。

同時に忘れてならないのが、我々の先祖が絶えず後から来る者のことを考え、遠き慮(おもんぱかり)の心を持ち続けたことだろう。

『小さな人生論5 (小さな人生論シリーズ)』致知出版社


詩人の坂村真民さんの詩がある。(本書より)

『あとから来る者のために

田畑を耕し

種を用意しておくのだ

山を

川を

海を

きれいにしておくのだ

ああ

あとから来る者のために

苦労をし

我慢をし

みなそれぞれの力を傾けるのだ

あとからあとから続いてくる

あの可愛い者たちのために

みなそれぞれ自分にできる

なにかをしてゆくのだ』

「たとえ明日、世界が滅亡しようとも今日私はリンゴの木を植える」

という、ドイツの宗教改革者、マルティン・ルターの有名な言葉がある。

我々は、あとから来る者のために、自然を守り、日本の国柄、民族の魂、目に見えないものへの畏敬の念を語り継がなければならない。

そして…

あとからくる者たちのために、リンゴの木を植える人でありたい。



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