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2019.6.16

一つの業種が丸々この世から消えてしまう

成毛眞氏の心に響く言葉より…

222万6613部。

これは2017年から2018年の、たった1年で消えた新聞の発行部数だ。

「新聞が消滅する」と囁かれて久しいが、数字は残酷な現実を突きつけている。

「日本新聞協会」が発表している日本の新聞発行部数によると、2018年は3990万1576部。

これは発行部数のピークだった1997年の5376万5000部と比べると約1400万部も少ない。

20年で業界の規模が4分の3に縮小したことになる。

新聞の部数激減の原因は一つではない。

インターネットの普及で「紙の新聞を読む」という習慣が、若年層を中心に消滅しつつあることが何よりも大きいだろう。

販売店に必要以上の部数を押し付けて、発行部数を水増しする「押し紙」を止めたことも背景にあるかもしれない。

政府が2018年にまとめた高齢者白書によると、2017年に1億2671万人だった日本の人口は2045年には1億1000万人を割り、2055年には9744万人と1億人の大台も下回るとされる。

つまり、これから40年の間に、2500万人もの人口が消えることになる。

さらに、高齢者比率(65歳以上)も2035年にはほぼ3人に1人(32%)、2065年には2.6人に1人(38%)まで上昇する。

こうした人口動態の変化で、介護などの高齢者向けのサービスや技術、ロボットなどの産業は拡大するかもしれない。

しかし同時に、技術の進展や少子化によって、立ち行かなく産業が出てくるのも疑いようがない。

その直撃を受けかねない最たる産業として、教育関連業がある。

たとえば、学校や塾といった学習支援は約350万人が従事する巨大産業だ。

なかでも平成の30年間で極端に膨張してきたのが、大学ビジネスである。

日本の大学は、少子化にもかかわらず、右肩上がりに増え続け、2019年3月現在、787校を数えている。

1989年が499校だったので、平成の間に約300校、1年に10校のペースで増え続けたことになる。

このままだと令和は「大学衰退の時代」といわれるかもしれない。

人口動態の変化で、大学より一足先に荒波にさらされたのが予備校業だ。

2014年に代々木ゼミナールが「27校舎を7校舎まで減らす」と発表し、驚いた人も多いだろう。

予備校の生徒数は1990年では約19万5000人だったが、2015年では約4万6000人程度まで激減。

足元で少子化傾向が続くことを考えるには、もはや「予備校と呼ばれる存在そのものが、社会的役割を終えつつある」といっても過言ではないかもしれない。

教育関連と同じく、300万人以上が従事する運輸通信業も、人口動態の変化が直撃している業種だ。

なかでも地域人口減少の影響を受けやすいのが公共交通機関である。

今後、中長期的にかなりの減収になるのは確実視されており、なかでも過疎地では、存続そのものが危ぶまれている鉄道路線がすでに少なくない。

大都市以外の在来線は慢性的に赤字なだけに、地方に行くほど鉄道会社の経営は厳しくなる。

公共性を踏まえて耐えに耐えてきたが、もはや限界だろう。

鉄道は車両やレールなど施設維持に莫大なコストがかかるため、路線の維持すら難しくなっているのが現実だ。

赤字でも会社が存続できていたのは、国から交付された経営安定基金の運用益があったからだ。

民営化時、経営基盤の弱いJR四国、北海道、九州の3社に計1兆2800億円交付され、四国には2082億円が支給された。

人口減少が直撃しているのは企業だけではない。

財政難に陥った結果、その維持が困難になりつつある自治体も少なくない。

日本経済の根幹を長く担い、大規模な雇用を地域に生んできた製造業の多くが海外に進出している。

市税は目減りし、地方交付税の減少も響き、財政の悪化が止まらない。

特にこの10年ほどで、より深刻になっているのが旧炭鉱の街だ。

炭鉱の閉山などと聞くとかなり昔の話に思えるかもしれない。

しかし、つい最近まで国が支援を続けていたのである。

石炭から石油への転換期に当たる1950年〜60年代、閉山に伴う大量失業などに対応する必要に迫られ、公共事業に対する国庫補助のかさ上げや雇用費用対策など、“カネ”を投下し続けた。

“カネ”が自然に落ちてくる制度が約半世紀続いた結果、その地域に何が生まれたのか?

それは、役所・住民双方における「依存体質」だと思う。

石炭の街である北海道の夕張市が2008年に破綻したように、いつ「第二の夕張」が出てもおかしくない状況といえよう。

旧炭鉱街は極端な例と思われるかもしれない。

しかし人口減少が進む日本ではそのほかの自治体も、そしてそこで働く公務員も安穏としていられない時代になることは間違いない。

わかりやすいのは道路、図書館、美術館などだろう。

この10年ほどの間で、民営化や運営委託などが急速に進んだのは周知の事実だ。

『決断 会社辞めるか辞めないか (中公新書ラクレ)』中公新書ラクレ


成毛氏は本書の中でこう語る。

『20年ほど前まで、上京した大学生が地方に戻り、Uターン就職する際に人気だったのが「県庁」と「銀行」だった。

それは、いずれも「潰れない」と信じられていたからだろう。

しかしその状況は大きく変わった。

銀行、特に地方銀行はすでに存続自体が危ぶまれている。

金融庁は2018年に衝撃的な報告書を出した。

東北や四国など23県の地銀について、地域で独占的な存在になろうとも、不採算構造は変わらないと指摘したのだ。

つまり、店舗や人員を減らそうが時間稼ぎに過ぎない、ビジネスモデルそのものが立ち行かなくなっている、というわけだ。

金融庁は銀行の監督官庁である。

いわばプロスポーツチームの監督がその選手へ「そろそろ引退だな」とクビを宣告したに等しい』

そして、成毛氏は『これからの時代、一つひとつの会社が変わる、というレベルにとどまることなく、一つの産業“丸ごと”での激変がしばしば起こることになるというのが私の見立てだ。ある日、一つの業種が丸々この世から消えてしまう、という事態がおそらくこれから増えていくことだろう。』という。

先日、『引きこもり18年、去った老親 「市役所に相談を」メモ残し』(西日本新聞)という記事があった。

自宅で18年引きこもってっている54歳の男性が、ある朝起きると家にいるはずの両親がいなくなっていた、という話だ。

寝具も食器も車もなくなっていたという。

両親は70歳代。

途方に暮れた男性は、次第に「自分ではいあがるしかない」と思うようになり、市役所に相談に行き、生活保護の申請をした。

現在は、生活保護を受けず、派遣社員として働いているという。

両親の「疲れ果て限界にきていた」というメモも見つかった。

欧米ではあまり引きこもりが顕在化しないのは、18歳になると親のもとを去る、という文化があるからだという。

これは、人間の引きこもりだけの話ではない。

企業も地方自治体も、補助金をもらい続けていると、行動を起こさなくなる。

ゆでガエルの原理だ。

「一つの業種が丸々この世から消えてしまう」ような時代…

どんな変化にも対応できる力を身につけたい。



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