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2019.5.14

お金をかけずに豊かで幸せな生活を実践する

三浦展氏の心に響く言葉より…

2012年に『第四の消費 つながりを生み出す社会へ』を上梓した。

同書は単に理論的な本として読まれただけでなく、多くの若い世代が新しい行動に一歩踏み出す、あるいは行動を加速することに影響を与えたようだ。

そもそも「第四の消費」とは何か、特徴だけを簡単に説明する。

1. 物の豊かさ志向から人間関係の豊かさ志向へ

物の豊かさから心の豊かさへという志向の変化は、内閣府「国民生活に関する世論調査」においても過去40年間の長期トレンドである。

高度経済成長期であり、第二の消費社会である1970年代半ばまでは物の豊かさ志向が強かったが、その後の第三の消費社会を通じて心の豊かさ志向が物の豊かさ志向を上回り、強まり続けた。

第四の消費社会である現在は、消費や生活を通じて心の豊かさを求めることは当然の大前提となっており、具体的にはいかに豊かな人間関係を築くかが重視される。

2. 私有志向からシェア志向へ

物の豊かさ志向の縮小は、生活の中から不要な物を減らすという志向となって現れる。

一家に一台テレビやクルマを私有しようとした第二の消費社会から、家族それぞれが自分専用のクルマ、テレビ、ステレオなどを私有し、一人一台の時代になった第三の消費社会を経て、第四の消費社会になると、人々は特に必要のない物は私有せずレンタルで済ませたり、シェアをしたりするようになった。

カーシェアリング、シェアハウスなどがその典型である。

またシェアには、核家族や会社の中での閉鎖した人間関係を解体し、家族や会社の外側へ個人を開放していくことで、地域社会の中で個人個人が自分の持つスキルをお互いに提供し合って生活の質を高めようという意味もあり、特に本書にはそうしたシェアの事例が多い。

3. ゴージャス・ブランド志向からシンプル・ナチュラル・手作り志向へ

円高、株高、土地高の進行により経済的にピークに達した第三の消費社会においては、海外高級ブランドのファッションやクルマを買うことが日常化し、華美な消費行動が盛んになった。

しかしバブルが崩壊すると次第に人々の生活はシンプル志向になり、エコロジー意識の高まりもあって、人工的な物、ケミカルな物、大量生産品よりも、ナチュラルな物、作り手の顔が見える手作りの物を志向する人が増えていった。

そもそも第三の消費社会のまっただ中においても、すでに無印良品のようなノーブランドでシンプルでエコでナチュラル志向の商品が登場し、ひたひと人気を拡大し続けた。

それは、不要な物をイメージ広告で売りつける第三の消費社会の偽善性に対する批判意識がすでに台頭しており、第四の消費社会を準備していたということである。

4. 欧米・都会志向から日本・地方志向へ

高級ブランド志向からの離脱は欧米志向を弱めた。

明治以来の日本において生活を近代化することは生活を欧米化することであり、欧米の物を生活に取り入れることであり、いち早く欧米文物が輸入される都会が人々の憧れだった。

しかし第三の消費社会において生活の欧米化はほぼ頂点に達し、第四の消費社会になるとむしろ日本の伝統を見直す気運が広がり、京都人気が高まった。

さらに欧米の文物が輸入される都会よりも、古い日本の生活が残っている地方への関心が高まることにもなった。

それは言い換えると、経済・文化のグローバルリズムに対する「小さな経済圏・文化圏」の創出を意味する。

しかし小さな経済圏は、グローバルなそれと対立するのではなく、共生するのである。

大体こうしたことが第四の特徴である。

私はそこに「再・生活化」という共通の軸があるのではないかと思う。

「再・生活化」とは、高度経済成長期以前の日本人の一般的な暮らし、生活を、もう一度見直し、再評価し、部分的にであってもそれを現代の生活に取り入れようとする動きである。

具体的に言えば、工業製品をたくさん私有する現代の消費生活ではなく、あるいは食品ですら加工食品が主流となり、野菜や果物も工業製品のように生産される現代に対して、少しでも自ら食べ物をつくる側に回りたいという意識が高まり、実際に、少しであっても農業をする人が増えたり、味噌づくりワークショップに参加する人、梅干しや梅酒をつくる人などが増えたりしている。

こうした生活は、日本人の大半が第一次産業従事者だった1950年代までは(ほんの60年ほど前!)、単なる日常である。

だが、そうした日常からあまりにも遠く離れたところに来てしまった現代生活の中で、特にバーチャル化、デジタル化が急速に進んで生身の人間らしさが日常から奪われていくことに対して、これでいいのかと疑問を感じる人々も増えてきたのであろう。

バーチャル化もデジタル化も原子力も現代文明が生み出した「魔法」である。

その魔法によって、われわれは60年ほど前にはまったく想像もしなかった暮らしを、今している。

ほとんどドラえもんの道具のように、何でも可能だ。

だが、ドラえもんがポケットから取り出す道具が実に素朴でアナログな形をしているのとは異なり、現代の道具はスマホの画面を指でなでるだけである。

本当に魔法のように実在感がない。

そして何より、一般人は魔法を理解できない。

種も仕掛けもあるはずだが、一部の魔法使いだけがそれを知っている。

そういうリアリティのない時代にわれわれは生きている。

だからこそ、今ほどリアリティを求めたくなる時代はないのだ。

魔法ではなく生活が欲しくなる。

生き物として生きている実感が欲しくなる。

ひとつひとつの行動がすべてリアルな生活。

リアルなものをつくり、リアルな行動で成り立つ生活。

『100万円で家を買い、週3日働く (光文社新書)』

本書の中の「お金をかけずに豊かで幸せな生活を実践する生き方」の事例には次のようなものがある。

■家賃月1万円で離島で豊かに暮らす

■狩猟採集で毎月の食費1500円

■夫婦2組、赤ちゃんも一緒にシェアハウスで暮らす

■8700坪の農地を買って週末を過ごす

■地域の人が老若男女一緒に食べる

■マンション街に「自由解放区」をつくる

■空き家に住み、「流し」と屋台で歌う

■退屈なニュータウンの自宅兼事務所をスナックにする

■すたれた郊外商店街に「縁側空間」をつくる

■現代の長屋をつくる

IT・AI化の加速する社会に対して、生き残る術(すべ)は大きく分けて二つある。

一つは、IT・AIの中に身を投じ、何らかの形でその恩恵を享受したり、自ら変化し進化しつづけるという生き方だ。

もう一つは、IT・AIによって損なわれたもの、置き去りにされた価値観を取り戻すような生き方、お金をかけずに豊かで幸せな生活を実践する生き方。

IT・AIあるいはロボットの進化により、何年か後にはなくなってしまう職業は数多くあるが、この二つの生き方は、AIにとって代わられることはない。

バーチャル化やデジタル化という現代文明が生み出した「魔法」が横溢(おういつ)する時代。

今、「どんな生き方をするのか」…

自分の本当の生き方を探し、実践したい。



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