2019.4.23 |
|
「サピエンス全史」より |
|
中谷巌氏の心に響く言葉より…
イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが書いた『サピエンス全史』は2014年に英訳が出るや大ヒットとなり、現在までに30近い言語に翻訳される世界的ベストセラーとなりました。
この本が大ヒットした理由の一つは、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグといったIT産業の巨星たちがこぞって激賞したことにあります。
ハラリはこの本において、数万年前から今日に至るまでの人類の歩みを、最新の技術であるAIやバイオテクノロジーといった分野までを視野に入れて書いています。
そして、これから先に人類文明はどうなるのかの予測は、続編『ホモ・デウス』で展開されています。
この二冊を併読することで、数万年前から21世紀末頃に至るまでの、人類の歩みとその将来を鳥瞰(ちょうかん)できるわけです。
「鳥瞰する力」を身につけているか否かで、ものの見方、あるいはビジネスに対する取り組みかたが、まるで変ってくるはずです。
鳥瞰する視点を得られることが、ハラリの著書の大きな効用でしょう。
『ホモサピエンス全史』において、ハラリは一つの大きな問いを掲げました。
それは、地球上に存在したさまざまなホモ(ヒト)属の中で、なぜホモ・サピエンスだけが今日まで生き延びることができたのか、という問いです。
人類がはじめて誕生したのは約250万年前。
そこから、ホモ・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)、ホモ・エレクトスなど数多くのホモ属が現れ、地球上のさまざまな地域に同時期に存在したこともあったわけですが、唯一の例外を除き、そのすべてが地球上からやがて姿がを消しました。
その例外がホモ・サピエンスです。
ハラリは、人類史には大きな節目となった三つの「革命」があったと指摘します。
《歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約7万年前に歴史を始動させた認知革命、約1万2000年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そしてわずか500年前に始まった科学革命だ》(サピエンス全史・上巻)
そして彼によれば、ホモ・サピエンスが生き残ることができた最大の理由は、「認知革命」にあります。
認知革命とは、ホモ・サピエンスがもともと持っていた学習、記憶、意思疎通などの認知能力における革命的な変化のこと。
具体的には、言語によるコミュニケーションのあり方の突然の変化です。
ハラリは、認知革命がホモ・サピエンスにとって驚くほど多くのことを可能にしたと言います。
たとえば、身の回りの自然環境の危険についての詳細な情報をやりとりする。
あるいは、信頼できる人は誰かという人間に関する情報を伝え合う。
これにより、家族など親密な人たちだけではなく、より大きな集団による協力関係が築けるようになったのです。
こうした、大勢の人間をまとめてマネージする力というものは、ネアンデルタール人にはあまりなかった。
したがって、ネアンデルタール人は家族や親戚など小さな集団でしか仕事ができなかったのです。
集団が小規模だと、できることも限られてきます。
自然の驚異や外敵から身を守るための大きな城壁をつくることや、洪水を防ぐための大規模な治水工事なども不可能でした。
ネアンデルタール人に比べると、私たちホモ・サピエンスは華奢(きゃしゃ)で、力もひ弱だった。
にもかかわらず、祖先たちが生き残ることの秘密は、実はその弱さにこそあったと考えられているのです。
弱いからこそ、必死になって安全な狩りを行うことができる道具を生み出し、弱いからこそ仲間同士で力を合わせ「協力」して集団の力を高めたのです。
そういったさまざまな生き残りの方法を考案する過程で、脳の進化が促(うなが)され、ホモ・サピエンスはそれまでの人類種が持てなかった全く新たな「想像力」を獲得したと考えられます。
多くの人の共同作業を可能にさせるような能力を身につけたことで、ホモ・サピエンスは生き延びたのです。
このように、大勢の人との共同作業を可能にしたのが7万年前に起きた認知革命でした。
ハラリによれば、これは単に実在する自然の驚異についての情報を共有し、それに対処できるようになったというレベルの変化ではありません。
認知革命で起きた最も重要な変化は、「全く存在しないものについての情報を伝達する能力」を得たことだと彼は主張します。
実在しないもの、つまり「概念」や「物語」を共有する力です。
伝説や神話、神々、宗教は、認知革命に伴って初めて現れた。
《虚構のおかげで、わたしたちはたんに物事を想像するだけではなく、集団でそうできるようになった。聖書の天地創造の物語やオーストラリア先住民の「夢の時代(天地創造の時代)」の神話、近代国家の国民主義の神話のような、共通の物語を私たちは紡(つむ)ぎ出すことができる。そのような神話は、大勢で柔軟に協力するという空前の能力をサピエンスに与える》
『「AI資本主義」は人類を救えるか―文明史から読みとく (NHK出版新書 571)』NHK出版新書571
ハラリは「認知革命」「農業革命」に続いて、「科学革命」が起こったという。
科学革命はこれまでの知識の革命ではなく、「無知の革命」。
科学革命により、無知な私たちでも努力さえすれば新たな知識を獲得できるという「進歩」の考え方だ。
神や宗教が想像上の虚構であったように、科学革命もまた、人間がつくった想像上の虚構で、現代において最も強力な想像上の虚構は、「資本主義」だという。
それは、何か実体があるわけではなく、想像上の概念としてつくりあげられたものであるからだ。
また、AIが今後資本主義の動きを大きく左右するようになる、ともいう。
それは、データが人間の思考や自由意思を奪う「データイズム」が到来するからだ。
我々は、いまやほぼ完全に情報ネットワークの一部となっていて、自分の自由意思でやっていることも、実は誘導されてやっていることが多い。
それは、例えばAmazonのリコメンドだったり、パソコンで検索したことに関連する情報が次々にあらわれたりすることだったり、AIスピーカーでニュースや音楽を聴いたり、天気予報を尋ねたりするのが生活の一部として組み込まれているからだ。
ハラリは、未来予測を行っているが、それは次のようなものだ。
1. 21世紀の技術革新の主流が人間自身の「身体の外部」から「身体の内部」に向かう。
2. 人間が自身の意思決定を「データ」(AI)に委ねるようになる。
3. 「データイズム」が人間中心主義を消滅させる。
4. 「無用の民」が新たなカーストとして出現する。
1. 今までは体の外に起きてきた技術革新、たとえば、早く移動できるための自動車とか、空を飛べないから飛べるような飛行機とか、計算を早くするためのコンピュータ等。
しかし、これからは、自分の体の中に様々な装置を開発して入れ込む。
それは、人間のサイボーグ化の一歩となるし、美容整形もその前段として当たり前に行われる。
2. Googleで様々な検索サービスを利用していると、Googleに膨大なデータが集まり、ついには自分よりもGoogleのほうが自分自身のことをよく理解している、ということになるかもしれない。
同様にFacebookの「いいね!」も同じで、そこから生成されたアルゴリズムによって、家族よりも正確にその人の意見を予測することができるという。
膨大なデータの集積をもとに、個人の価値観や好みを「当人よりも」よく知っている機関が外部世界にいくつも出てくるということだ。
3. 今後テクノロジーが更に進化したとき、巨大IT企業が膨大なデータをもとに人間をコントロールし始めることになるという予測だ。
AIとバイオテクノロジーに自分の生き方を委ね続ければ、人間中心主義という虚構が、データイズムに取って代わられる。
4. 今後データから生成されるアルゴリズムが、人間に代わってさまざまなことを行うようになる。
すると、人間が行っている仕事の約5割がAIに奪われる、大失業時代につながるという。
その結果、「無用者階級」が生まれる。
《21世紀には、私たちは新しい巨大な非労働者階級の誕生を目の当たりにするかもしれない。経済的価値や政治的価値、さらには芸術的価値さえ持たない人々、社会の繁栄と力と華々しさに何の貢献もしない人々、この「無用者階級」は失業しているだけではなく、雇用不能なのだ》
つまり、21世紀には不平等がアップグレードされるとハラリは言う。
それは、21世紀社会は庶民を必要としなくなる時代だから。
戦争にしても、21世紀には、兵士同士の肉弾戦などは局地的な紛争ならともかく、本格的な戦闘の場面では想像できない。
ミサイルやロボットなど、すべてAIを駆使した機械による戦争になるからだ。
ここでは、むはや、大勢の人間を徴兵する必要はなく、ごく少数の優秀なAI専門家こそが必要となる。
これは、産業の分野でも全く同じことが起こる。
これらはすべて、AIの負の側面が出ているが、それを突破する日本的な考え方が「包摂(ほうせつ)」だという。
包摂とは、包み込むことだが、舩井幸雄氏は「善悪をひっくるめてすべてを受け入れる」という発想だという。
つまりこの世で起こることはすべて、必然であり、必要、ベストであるという考え方が基本にある。
あらゆることが起こるべくして起こっているのだから、それを素直に受け入れるという考え方だ。
あらゆる現象を肯定するという東洋的な思想。
「AI資本主義は人類を救えるか」
どんなときも、明るい未来を引き寄せる努力を忘れない人でありたい。 |
|
|