2019.3.6 |
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人間学×マーケティング |
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神田昌典&池田篤史氏の心に響く言葉より…
少しでも先が見える経営者やソーシャルリーダーであれば、すでに感じとっているだろうが、第四次産業革命が本格的に幕を開けるポスト平成時代は、今までのインターネット革命など、子供騙しでしかなかったと思い知るほどの、経済および社会体制の変化を遂げることになる。
その間、景気は乱高下しながらも、大阪万博やカジノ開設といった延命策によって、表面的には最悪の状況にはならないかもしれない。
しかし、その裏で確実に起こるのは、新しい時代についていけない会社の大量廃業、そして人材の大量失業である。
これほどの環境変化の中では、会社は進化するか、それとも滅亡するか…。
そのいずれかである。
あなたの会社は、どちらを選ぶだろうか?
もちろん進化したいと思う会社がほとんどだろうが、現実は厳しい。
ほとんどの会社は、あとから説明する理由により、目前に崖が迫っていることを知りながら動き出せずに、表舞台から退場させられることになる。
しかし、逆に、「ここが正念場だ」と覚悟を決め、進化に挑んだ会社は、地域経済成長のための中核的役割を果たすと同時に、グローバル市場で大きく羽ばたく可能性をも掴(つか)むだろう。
その分かれ目となるのが、未来に向けて、「新成長事業」の開発に取り組むかどうか。
未来にふさわしい新しい事業を生みだす決意こそ、進化と絶滅の分水嶺(ぶんすいれい)となる。
そして、その事業を成功させるために必要なのが、本書のテーマである「人間学」と「マーケティング」だ。
その結論に、私たちがたどりついた背景には、私たちのマーケティングの勉強会に参加する会社が、自らの可能性に気づき、新事業の開発を決意したのをきっかけに、劇的に変わったという事例を、何社も目撃してきたことだ。
そうした進化する企業の特徴とは何か。
昨今のベンチャー企業のように、デジタル技術でプラットフォームビジネスを築くような会社かといえば、そうではない。
昭和・平成を通して成長してきた、地域に根ざした会社であった。
そうした会社は、創業経営者が「自分は還暦を超えたので、今後、事業を縮小するのもやむなし」と悩んでいることが少なくない。
ところが、その経営者が、新成長事業を見出し、拡大方向に舵を切ることを決意した途端、銀行や商社といった一流企業のビジネスパートナーや医者になった優秀な後継者たちが、自らの事業に舞い戻ってきた。
そして、その後、ほんの1〜2年で、全く見違える会社と生まれ変わった…。
そんな企業が続出したのである。
実は、新成長事業に関しては、大企業や技術ベンチャーには真似できない、成熟業界の中小企業だからこそ、開かれている突破口がある。
ITと通信が統合した結果、引き起こされる第四次産業革命では、大雑把にいって3つの成長領域がある。
一番注目されているのは、AIやIOTといった、いままでのインターネットの先に生まれた新テクノロジー分野である。
この領域は、市場は大きいが、ボッシュ、SAP、IBM、シスコ、Amazon、Google、日本企業では日立、NECなどがひしめいている。
ここは第四次産業の本丸であって、グローバル一流企業の独壇場。
中小企業が参入していくためには、膨大な資金が必要だ。
2つ目の領域は、B2B(BtoB)、法人向けに、インターネットを用いた高度な専門サービスを提供する事業分野である。
メドピアが医療機関に提供している遠隔医療サービスや、弁護士ドットコムが提供している、クラウドによる契約締結支援サービス「クラウドサイン」などは、その一例だ。
こうした法人サービスは、今、急速に伸びていて、アメリカではマーケティング関連サービスでも、2011年の150から、2018年には7000を超えるまでに急成長している。
そして、3つ目は、今までデジタルとは無縁でいられた領域、例えば農業、医療、介護、飲食、ローカルな物流といった分野だ。
この領域の企業は、例外なく、人手不足で悩んでいる。
生産性を改善するためには、これから何がなんでもデジタルを導入していかなければならない。
GoogleやAmazonをはじめとしたGAFAが、全世界で覇権をおさめたとしても、「ラストワンマイル」と言われるように、自らがローカルな商店街の中に入っていて活動できるかというと、なかなかそれはできない。
やはり、現地のことを知り尽くした地域のローカルカンパニーと手を組むことが必要になる。
こうしたローカル領域、しかも衣食住に関わる伝統的な分野に、デジタルを持ち込むのは、実はまだまだガラ空きの状態である。
生活に必須のサービスだから、たとえ今後、ハイパーインフレが起こって、金融危機が起こり、食料危機がきたとしても、なくなることはない。
安定した領域である。
「1つ目の領域はもちろん、2つ目や3つ目のおいしい領域は、結局、日本の大企業が、取り込んでしまうのでは?」そう考える人もいるだろう。
しかし、私の観察によれば、大企業はまず動けない。
なぜなら、経営決定プロセスが機能不全を起こしているからだ。
機能不全を起こした組織では、ありきたりの決定はできるのだが、重要な決定ができなくなっている。
企業規模が大きくなるほど、変革が難しいのである。
具体的に言えば、今のようなクラウド社会へ移行する中では、GsuiteやCrombookを導入すれば、一気に働き方改革は進み、生産性は目に見えて向上する。
コストもさほどかからないのだが、既存システムをめぐる考え方の違いやしがらみがあり、そんな単純な決定すら、極めて困難になってしまっている。
一方、中小企業は、組織を動かすためのリーダーシップがまだ機能する。
先ほどの例でいえば、中小企業の場合も、全社員にCrombookを支給して使わせたり、Gsuiteで業務を行うように強いたりすれば、ほとんどの現場は、当初、抵抗する。
どんなに今の効率が悪くても、慣れ親しんだ仕事のやり方を変えることは、一時的に効率が下がるからである。
しかし、トップが理解し、そこを押し切って、決断した途端、ある程度デジタルツールに詳しい30代の若手社員は、「待ってました」とばかりに力を発揮する。
だから、経営者が、やる気になって「デジタル変革を後戻りしない!」と決意すれば、新成長事業を起こせる領域に進出でき、大企業をはるかに超えた生産性をあげる可能性が満ちてくるのである。
さらに、中小企業が有利な理由がある。
特に、心を高める書籍等を丹念に読んでいる会社は、競争優位がある。
今、大企業が動けない理由は、デジタル技術を突破口に成長しようとすると、古い企業文化が免疫機能を発揮し、異物を排除しようとするからだ。
新しいツールを導入した途端に、今までの企業の体制・ヒエラルキーが崩されることを察知してしまうので、受け付けなくなる。
旧体制は、新しい変化をつぶしてしまうのである。
一方、ベンチャーは歴史が浅いので、企業文化が築かれていない。
だから急成長はするのだが、ある程度の成長を超えると、社員たちは離散してしまう。
企業文化がない企業は組織が築けないで、バラバラになってしまうのである。
となると、残るは、中小企業だ。
優良な中小企業は、企業文化がしっかりと築かれている一方で、新たなビジネストレンドを察知し、いち早く取り入れる柔軟さがある。
こうした中小企業が変わることが、日本を元気にする一番簡単な方法だと私は考えている。
『人間学×マーケティング (未来につづく会社になるための論語と算盤)』致知出版社
池田篤史氏は本書の中で、「人間学×マーケティング」についてこう語る。
『出口治明氏(立命館アジア太平洋大学学長)が、次のように述べていた。
「いまGAFAをはじめ、世界を牽引している企業で働いている人はものすごく勉強していて、ダブルマスター、ダブルドクターの人が多いんですよ。
しかも、統計学とか数学だけではなく、文学とか美学とか哲学の学位を持っている。
そういう世界を知って初めて、面白いアイデアが出せるわけです。
もっとも、大学院の免状を取れと言っているのではなく、例えば、『論語』と『老子』と『韓非子』を勉強することがダブルマスターでありダブルドクターであって、一つだけに決め打ちしないで幅広い分野を勉強していかないとこれからの時代のリーダーにはなれないという気がしています』
「人間学×マーケティング」は、『論語と算盤(そろばん)』をテーマとしているという。
『論語と算盤(そろばん)』は、日本で最初の銀行(現・みずほ銀行)をつくり、東京ガス、東京証券取引所など、生涯に500以上の企業の設立に関わったとされる渋沢栄一が、各地で講演した内容をまとめたものだ。
論語とは、道徳や人間学のことであり、算盤とは経済や経営やマーケティングのこと。
この二つを一致させることが大事であると渋沢翁は説いた。
日本にある約300万社のうちの99パーセントが中小企業。
そのうち、後継者に問題を抱える会社は6割あり、税務申告で赤字の企業は全体の7割と言われている。
このままでいくと、多くの中小企業は時代の変化に取り残され、淘汰(とうた)されてしまう運命にある。
だからこそそこで、デジタルに無縁だった中小企業が、デジタルを取り入れ、変革していく。
そして、そこで必要になるのが、現代版の「論語と算盤」。
人間学とマーケティングを一致させ、同時にそれぞれ深く掘っていける人でありたい。 |
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