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2019.2.8

「デザイン」の本来の意味は「設計」

各務太郎氏の心に響く言葉より…

日本でデザインという言葉を使うと、「絵心」「センス」「クリエイティビティ」という言葉と一緒に使われることがある。

敢えて強調するが、デザインと、センスやクリエイティビティは、全く関係がない。

とにかく新しい視点を提供すること、新しい課題を発見するということ、それこそがデザインなのである。

「デザインは問題解決」ということは、私たちも多くの本や記事で目にしてきた。

しかし、その本意は伝わりきっていないのではないかと思う。

例えば傘について考えてみよう。

傘というプロダクトは、「雨が上空から降ってくる」という問題に対して、「手で持てる軸の先に膜をつけて水滴をさえぎる」という解決の糸口を見いだしたものだ。

ここまでがデザイン。

膜の模様や、柄の形状のことはデザインとは呼ばない。

つまりデザイン力とは問題解決力のこと。

あくまで「問題を発見し、解決の糸口を示す」能力なのである。

私たちが普段「デザイン」と聞いて想像する「オシャレなグラフィック」等は、厳密にはデザインの範疇(はんちゅう)ではない。

絵心、造形力、センス、クリエイティビティは一切関係ないのである。

欧米では「デザイン」とは、課題解決や設計に特化した言葉であって、私たちがイメージするような「物事をきれいに整えること」は、「スタイリング」というまったく別の作業として存在していたのだ。

「問題解決」と「自己表現」。

その意味するところにおいて180度異なるデザインとアートであるが、なぜ日本ではこれほどまでに互いに混同されてしまうようになったのだろうか。

私は図工教育にその原因の一端があるのではないかと考えている。

つまり小学校から高校にかけての図工の授業の中で、絵や粘土が上手だったクラスメイトが、気づけば芸術系の大学や専門学校に進み、その後緒「デザイナー」として働いているから無理もない。

しかし冷静に思い返してみてほしい。

美術が得意というのは「自己表現」が得意ということであり、他人よりも上手に「スタイリング」ができる(オシャレに整えることができる)ということであって、決して「問題解決」に長けているというわけではない。

逆に言えば、本来「デザイナー」は美術系大学を出ている必要はまったくない。

質の高い課題を発見し、解決の糸口を提示することが出来さえすれば、簡単なポンチ絵が描ければ十分なのである。

実際世界のトップのデザイナーの中には絵心が皆無と言えるひとが数え切れないほどいるが、彼らの「デザイン力(問題解決力)」はやはりスバ抜けている。

もし企業の採用担当者が「問題解決力の高いデザイナーを雇うことで社内にイノベーションを起こしたい」という意図で、スタイリングだけが得意な人を採用してしまった場合は悲劇だ。

きっと社内の会報誌の表紙がいたずらにオシャレになるだけで終わってしまうことだろう。

『デザイン思考の先を行くもの』クロスメディア・パブリッシング


各務太郎氏は「見立てる力」について本書の中でこう語っている。

『それは、ふつうの人から見れば全く関係ないふたつの異なるものも、それぞれをシナリオまで抽象化してとらえることで、同じ土俵で結びつけることができる眼力。

例えば作曲家がジェットコースターに乗ったら、その上下運動やスピードの緩急がメロディに「感じてしまう」かもしれない。

パティシエがドバイの面白い建築物を見たら、新しいケーキのフォルムに「見えてきてしまう」かもしれない。

その人の専門性や得意分野のフィルターを通すことで、他の人には見えないものが見えてくること。

それはもはやロジックやマーケティングでは説明不可能なもの。

そしてハーバードのデザイン教育は今、世界を変えるようなイノベーションを起こす上で、この「個人の見立てる力」こそが、いちばん重要な要素と考えている。』

そして、各務氏は「あの人だったらどんなアイデアを出すだろう」というロールプレイングを脳内で行うという。

たとえば、アンパンのCMをつくることになったとして、それを仮に「もしユニクロがアンパンのCMをつくったらどうだろう」と考える。

たぶん色んな国籍を持った若者が、それぞれ異なる色の鮮やかなカラーパンツをはき、軽快なBGMとともにアンパンを片手に白い階段を降りてくる画が想像できる。

また、料理のレシピ本を手に取り、「この本から絶対に建築を学ぶ」と決めて読み始めるといった具合だ。

「デザイン」の本来の意味は「設計」であり、新しい見立てや視点を通して問題解決をするという行動。

従来言われてきた「デザイン」は、「スタイリング」であり、それが美しくセンスよく整えること。

そして、「むしろ、誰もが手放しに称賛してくれるアイデアは実行しないほうがいい。なぜなら人は、一般的に既視感のあるアイデアは安心して受け入れることができるからだ。そのアイデアはきっともう、誰かがやっている」。

「見立て力」を磨き、新たな視点で様々な問題を解決できる人でありたい。



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