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2018.9.29

生きる陣地は、小さくていい

大越俊夫氏の心に響く言葉より…

年をとると新陳代謝が衰えて、イヤでも体に脂肪がついてくるが、心のぜい肉にも同じことがいえる。

年齢やキャリアを重ねるにつれて、お金の次は地位、さらには名誉などと欲望をしだいに太らせていく人がいる。

大学の先生をしている知人が彼の同僚を評してこんなことをいっていた。

「それまでは学問一筋の清廉(せいれん)な人物で、尊敬の念を抱いていたんだが、定年が近づくにしたがって、だんだん俗気が出てきたようでね。

あるときぼくに、自分を名誉職に推す推薦人になってくれないかという依頼をしてきた。

まあ、それぐらいならと名前を貸したら、こんどは学内に銅像を建てたいなんていいだしたんだ…」

年齢が同僚氏を変えてしまったのか、それとも秘めていた欲望が年とともにあらわになってきたのか、どっちなのかはわからないが、かつての清廉な姿が俗臭にまみれるさまを見るのは、それが人間の性(さが)とはいえ、悲しいと知人は嘆息していた。

ことほどさように人間の欲はほうっておくと肥大するものだ。

自分を大きく見せるのはたやすい行為である。

それが人間本然の欲望に沿ったものだからである。

反対に、「自分を小さくする」ことはきわめてむずかしい。

それが意志にもとづく行為だからである。

欲望と意志が戦えば、勝利するのはたいてい前者のほうだ。

人が生きる陣地はおのおの小さいものでいいと思う。

陣地は狭くても、取り柄は少なくても、「これ」については誰よりも情熱がある、誰よりもくわしい、誰よりも優れている。

そういうパーセー的(自分の本質を保って余分な衣やぜい肉をまとわない。ものを加えるのではなく、ものを削っていく発想をする。自己肥大ではなく自己凝縮の方向へ努力をする。上昇思考よりは下降思考を心がける。存在意義を自分の外へ求めるのではなく、自分のうちに求める)強みを身に備えることのほうが大事である。

いたずらにサイズを大きくしようとするよりも、サイズはそのままでいいから中身の密度を濃くすることに力を注ぐ。

新しいことに手を広げるよりも、いまやっていることをさらによりよくやることに努める。

そうして小さいが濃密な自分を原点とし、迷ったらいつも本質(原寸)の自分に戻る。

そんな自己凝縮型の生き方が、不安定かつ不透明ないまの時代には有効なのではないか。

《生きる陣地は、小さくていい。自己を「広げる」生き方よりも、自己を「縮める」生き方を心がける。》

『その弱みこそ、あなたの強さである』PHP

行徳哲男師の言葉がある。(いまこそ、感性は力)より

『カントは死ぬまで我が街から一歩も出でず。

キリストの布教はわずか5マイル四方。

しかし二人は人類を永遠に照らす深い真実を遺した。』

広さではなく、深さが真実や真理を伝える。

我々は往々にして、広さという、「華やかさ」や「派手さ」、「目立つこと」を求めてしまう。

広さとは、企業なら「売上げ」であったり「支店数」や「社員数」といった規模の大きさだ。

深さとは、中国明代の儒学者、呂新吾(ろしんご)の言う、「深沈厚重(しんちんこうじゅう)」のこと。

これは、第一等の人物の素質について語ったもの。

深みとは、また会いたくなるような深みと余韻のこと。

沈みとは、川に沈んでいる石のように水の流れにも動じない重厚さ。

厚みとは、温かさ思いやりの深さや厚み。

重みとは、どっしりとして重みのある発言や所作。

この「深沈厚重」の資質は、生きる陣地を小さくしなければ身につかない。

広さではなく、深さを求め続ける人でありたい。



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