2018.1.12 |
|
小さな歌声 |
|
|
ジャック・キャンフィールド氏の心に響く言葉より…
メアリーは5歳の患者。
台車に載せた彼女を、MRI(磁気共鳴装置)の検査室に運びながら、この子はいまどんな思いでいるのだろうと思った。
メアリーは卒中で倒れて半身不随となり、脳腫瘍の治療のために病院生活を送ってきた。
そのうえ、最近父親を、続いて母親を亡くし、帰る家もなくなってしまった。
そんなメアリーがこの検査をいやがるのではないかと、私たち医療スタッフは気がかりだった。
MRIの装置の中に、メアリーは文句も言わず、素直に入れられた。
検査が始まった。
初めの5分間、患者は完全に静止していなくてはならない。
これは、誰にとってもかなり苦痛だ。
とりわけ不幸の連続だった5歳の幼い少女にとっては。
撮らなくてはならないのは、頭脳の画像だった。
だから、どんなにわずかでも、喋ったりして顔が動くと画像がブレてします。
2分たった。
と、モニターにメアリーの口が動いているのが映った。
何かモゴモゴと喋っているのも聞こえてくる。
スタッフは検査を中止し、メアリーに優しく注意した。
「メアリー、いい子だから、お喋りやめましょうね」
メアリーは微笑むと、二度とお喋りしないと約束してくれた。
スタッフはふたたび装置を作動させ、初めからやり直した。
ところが、また顔が動いている。
声もかすかに聞こえる。
なにを言っているのかはわからないが、みんなイライラしてきた。
ほかの患者も待っている。
メアリーのために、予定をやりくりして検査しているのだ。
私たちは検査室に入っていき、メアリーを装置から出した。
メアリーはいつものひしゃげたような笑顔で私たちを観たが、いっこうに悪びれた様子がない。
検査技師はやや不機嫌になって言った。
「メアリー、またお喋りしていたね。お喋りすると画像がブレちゃうんだよ」
メアリーは笑顔のまま、答えた。
「お喋りなんかしてないわ。歌ってたの。お喋りしちゃダメっていうから」
私たちはあっけにとられた。
「それ、どういうこと?」スタッフの一人が尋ねた。
「“主われを愛す”」蚊の泣くような声だった。
「幸せなときはいつもこの歌を歌うの」
検査室の誰もが言葉を失った。
幸せ?
まさか?
どうしてこの幼い少女が幸せだなって言うのだろう?
検査技師と私は、思わず涙ぐんでしまい、涙を見せまいとしていったん部屋を出た。
それ以来、私は気持ちが滅入ったり、落ち込んだりするたび、メアリーのことを思い浮かべるようになった。
メアリーのことを思えば、謙虚になれる。
そして勇気が湧いてくる。
逆境にあっても幸せを感じ取る心こそ、神からの贈り物なのだ。
進んで受け取る気持ちさえあれば、誰にだって与えられる贈り物なのだから。
『みんな誰かを愛してる―こころのチキンスープ〈12〉』ダイヤモンド社
石川洋氏に「自戒」という詩がある。
つらいことが多いのは 感謝を知らないからだ。
苦しいことが多いのは 自分に甘えがあるからだ。
悲しいことが多いのは 自分のことしか分らないからだ。
心配する事が多いのは 今をけんめいに生きていないからだ。
行きづまりが多いのは 自分が裸になれないからだ。
まわりの誰がみても不幸せだと思える状況で、その中から幸せを見つけ出せる人がいる。
そんな人に出会うと…
謙虚になれる。
自分に甘えがあることに気づかされる。
自分勝手なことに気づかされる。
今ここ、に生きなければと思う。
自分をさらけ出せないことに気づかされる。
毎日を、謙虚に、感謝の気持ちで生きてゆきたい。 |
|