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2017.11.23

あきらめること

曹洞宗徳雄山建功寺住職、枡野俊明氏の心に響く言葉より…

座禅をしていると、いろいろな気づきがあります。

ふだんは気づかなかった、小鳥のさえずりや風のそよぎ、季節の香りといったものが感じられるのです。

「風がこんなにあたたかくなっていたのか。そうか、もう、春だからな」「キンモクセイのいい香りが漂ってくる。秋を連れてきてくれたんだな」と、そんな思いが心に広がります。

日常生活の中で、心はどうしても「なにか」にとらわれています。

仕事のことであったり、家族のことであったり、恋愛のことであったり…。

そのことがとどまっていて心が縛られてしまっている、といってもいいでしょう。

じっと座っていると、とどまっているものが溶け出していき、心がふ〜っとゆるみます。

禅語でいう「身心脱落(しんじんだつらく)」。

ここでいう「脱落」とは「解脱」という意味で、一切合切を放下(ほうげ)し、なんの執着もない、という「自由無碍(じゆうむげ)」の境地を指します。

なにものにもとらわれない、心をとどめない自在な状態になるのです。

ですから、気づかなかったことに気づくことになったり、見えなかったものが見えてきたりするのだと思います。

それとは逆に、心を縛りつけるのが「競争」です。

「同期に負けてなんかいられない。課長ポストを最初に手に入れるぞ」「お隣よりいい車を買わないと、プライドにかかわる」「ブランド品の数では彼女に絶対勝たなくっちゃ」…

他人と競う思いが心を縛るのです。

しかし、必ずしも思いどおりになるとは限りませんから、今度は屈辱感や挫折感、嫉妬心、無力感といったものが、心にのしかかってくることになります。

心を縛るものからどう解放されるか。

「あきらめる」ことがひとつの方法かもしれません。

ギブアップするのではありません。

うまく「手放す」のです。

「勝ちたい」「負けたくない」という思いをいったんあきらめる。

少しのあいだ脇に置いてみる。

ちょっとそこから離れてみる。

すると、必ず、気づくこと、見えてくるものがあるはずです。

道元禅師の言葉に、「放てば手にみてり」というものがあります。

欲や執着を手放したとき、本当に大切なものが手に入る、ということです。

たとえば、ポスト争いに躍起になっていたときには気づかなかった、自分の仕事のすばらしさに気づくかもしれません。

「自分が売っていたこの商品は、顧客にこんなふうに喜ばれていたのか。よし、もっと自信をもって営業に回ろう」

お隣と競い合っていたときには見えなかった、家族の本当の幸せといったものが見えてくることもあるでしょう。

「高級車を買ってローンの支払いに頭を悩ませるなんてバカげているな。いまの車を大事にして、ときには食事に行ったり、旅行に出かけたり、家族で一緒に過ごす時間をたくさんつくろう」

あるいは、ブランド漁りをしているときには知らなかった、ものへの愛着が芽生えるかもしれません。

「本当に気に入ったものを大切に使うって、こんなに心地のよいものなんだわ」

どうやら、上手に「あきらめる」ことには、座禅にも匹敵するような作用があるようですね。

禅は実践。

ぜひ、すぐにも上手に「あきらめる」ことに取りかかってください。

『競争からちょっと離れると、人生はうまくいく (単行本)』三笠書房


「あきらめる」は「諦める」と書く。

「ギブアップする」とか「未練を断ち切る」「断念する」といった意味で使われているが、元々は、真理や真実を、「明らかにする」「はっきりさせる」「つまびらかにする」という意味だ。

「あきらめる」とは、欲やとらわれ、こだわりや、思い込みなどを手放すこと。

手放すとは、「放下著(ほうげじゃく)」すること。

投げ捨てる、放り投げる、捨て切る、という意。

西郷隆盛は『西郷南州遺訓』の中で、幕臣、山岡鉄舟のことを評してこう語っている。

「徳川公は偉いお宝をお持ちだ。

山岡さんという人はどうのこうのと言葉では言い尽くせぬが、何分にも腑(ふ)の抜けた人でござる。

命もいらぬ、金もいらぬ、名もいらぬ、といったような始末に困るひとですが、あんな始末に困る人ならでは、お互いに腹を開けて共に天下の大事を誓い合うわけには参りません。

本当に無我無私、大我大欲の人物とは山岡さんの如き人でしょう」

「諦める」という状態の究極に行きついた先が、この「命もいらぬ、金もいらぬ、名もいらぬ、といったような始末に困るひと」のこと。

上手に「あきらめる」ことの実践をしたい。



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