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2017.4.21

凛とした生き方


臨済宗相国寺派管長、有馬頼底氏の心に響く言葉より…

どんな人でも、何か良いことが起こると嬉しいでしょうし、素敵な物を手にすれば当然喜びます。

ところが、禅の世界には「好事不如無(こうずもなきにしかず)」『碧巌録』と言う言葉があり、「どんなに良いことでも、無いに越したことはない」と教えています。

「良いことが、無いに越したことはない」とは、いったいどういう教えでしょうか。

「良い出来事なら起こった方がいいに決まっている」と感じる人も多いでしょう。

ごく簡単に言うならば、良いことが起こったとしても、それに囚われ、執着してまえば、それはすでに「良いこと」ではなくなる。

そんなものなら、初めから起こらないほうがいい、というのがこの言葉の教えです。

わかりやすい例を一つ挙げてみましょう。

宝くじで高額を当てた人が、その後の人生を狂わせてしまうなんて話を聞いたことはないでしょうか。

実際、私はそんな人を何人も見てきました。

宝くじが当たるというのは、それそのものは好事と言っていいでしょう。

思いがけず大金が入ってくるのですから、誰もが喜ぶ出来事です。

しかし、そのせいで、かえって強欲になったり、そのお金を独り占めにしようとしたり、自分に近寄ってくるすべての人に疑いの目を向け、猜疑心でいっぱいになってしまうとしたら、これほどの悪事はありません。

宝くじの当選によって人生を狂わされた人は決まって「あんなもの、当たらなければよかった」と思うものです。

好事が起こったときというのは、じつはその人の人間性が試される瞬間でもあるということ。

もちろん、それは「宝くじが当たる」という、やや現実離れした話に限りません。

たとえば、あなたの仕事が認められ、出世することができたとします。

仕事が認められることも、出世することも、悪いことではありません。

紛れもなく好事でしょう。

しかし、出世したことで、急に「自分が偉くなった」と勘違いをして、周囲の人間に横柄な態度をとるようになったり、謙虚に努力する心を忘れてしまったら、せっかくの好事も台無しです。

さらに、自らの名誉欲がちょっと満たされることで、よりいっそう強欲になって「もっと出世したい」「もっとみんなに認められたり」「もっと、スゴイと言われたり」という思いばかりが先行する人もたくさんいます。

そんな醜い人間になってしまうくらいなら、最初から出世などせず、地道に努力を続ける人でいたほうがよほど幸せなのかもしれません。

きっとあなたの周りにも、そんな「好事」によって評判を落としたり、周囲からの信頼を失った人がたくさんいるのではないでしょうか。

まさに好事というのは、人生の落とし穴でもあるのです。

大事なのは、何か一つ好事があったら、それに囚われることなく、すぐに捨て、淡々と次に向かっていくことです。

『碧巌録』には「手に白玉の鞭を把(と)って驪珠(りしゅ)、 尽(ことごと)く撃砕(げきさい)す」という言葉があります。

宝石を握ったら、それを打ち砕いていかなければいけない、という教えです。

いかにすばらしものであっても、それを握りしめ、執着してはいけない。

たとえそれが宝石であっても、それを打ち砕いていかなければならないと厳しく教えているのです。

よく「過去の栄光にすがる」という表現をしますが、あれこそ自らの執着心に囚われて、いつまでも小さな宝石を握り続けている状態です。

偉業であれ、評価であれ、名誉であれ、金銭であれ、何か好事が起こったら、それを自ら打ち砕き、次へ進む意識を持つことが大事なのです。

本当にすばらしい功績を挙げる人というのは、決して過去の栄光にすがることなどありません。

一つの偉業を成し遂げたとしても、まるで何事もなかったかのように、翌日からはまた淡々と自らの使命に取り組むものです。

ぜひとも、そんな潔く、凛(りん)とした生き方をして欲しいものです。

『金閣寺・銀閣寺の住職が教える 人生は引き算で豊かになる』文響社


「好事魔(こうじま)多し」という言葉がある。

良いことには、とかく魔(邪魔)が入りやすい。

たとえ、良いことがあったとしても、有頂天にならず謙虚でいることが必要という意。

良いことがあったときや、逆に悪いことがあったときにも、それは、その人の人間性や器が試されているとき。

偉そうになってしまったり、威張ったり、逆に、ガックリと落ち込んでしまったり、不機嫌になったり、まわりに当たったり。

「何か一つ好事があったら、それに囚われることなく、すぐに捨て、淡々と次に向かっていくこと」

潔く、凛とした生き方をしてみたい。


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