2016.10.2 |
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仕事が出来る人は店での「所作」も美しい |
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北村森氏の心に響く言葉より…
みなさんは、店やホテルを利用するとき、「自分はお金を支払う客なんだから、立場が上だ」と考えていませんか。
そういう姿勢では、将来にわたって旨いものは食べられないし、気持ちをくすぐられるような接客は決して受けられない、と私は考えています。
これは、東京・銀座にある店を営む若いご主人から聞いた話です。
相撲の世界で一時代を築き上げた大横綱が、ある夜、その店のカウンター席で食事を楽しんでいました。
名店といわれる一軒だけに、その夜も満席だったといいます。
そこに新しい客が暖簾をっくぐってやってきました。
その顔を見ると常連の客だったようで、店のご主人はどう返答すべきか、ちょっと考えあぐねました。
いくら満席だったとしても、邪険にはできませんから。
一拍おいた、その後でした。
カウンター席にいた横綱が「あっ、私、そろそろ出ますから」と、店の人に勘定を促したそうです。
客だから長居してもいい、という話ではないんですね。
店と客との呼吸というのがある、ということでしょう。
ご主人は私に「あのときの横綱の心遣いには、本当に助かったんですよ」と話していました。
常連客というのは、店にわがままを聞いてもらう夜もあれば、店のわがままを聞く夜もあるということです。
店の側がなにも言わずとも、客が察して先回りできれば、いうことなしでしょう。
こういうことひとつひとつが、大事なのだと思います。
さらに言えば、こういう呼吸を心得た人って、仕事の現場でも必ずや同じような気遣いができるはずですしね。
その意味では、「店やホテルでの所作が美しい人」の多くは、おそらく「仕事も間違いなくできる」といえるかもしれません。
だったら、いっそのこと、店やホテルでの所作を磨けるように普段から努めていたら、仕事そのものにも好影響をもたらすだろう、と私は思いますよ。
名の通った、とある割烹のご主人に尋ねたことがあります。
思わず無理を聞きたくなる客って、どんな人だったりするものでしょうか。
答えは明快でした。
「店の無理を聞いてくれるお客ですよ」
たとえば、先の横綱のように、「あ、僕はいま出るよ。勘定してね。ごちそうさん」と、すっと席を譲る客がいると、心の中で手を合わせるんですよ、と言います。
そこまでしなくても「ちょっと席を詰めちゃおうか」というひと言も嬉しいものだと聞きました。
これ、ビジネスのうえで相手先といい関係を結ぶのと、まったく同じ話ということになります。
「金を支払うのはこちらだ」という姿勢ではいけない。
「自分は客だぞ」という思いが見え隠れするようでは関係が深くならない。
ちなみに、ホテルや宿でのマナーで、基本中の基本と私が考えているのは、「その客室に入ったときと、なるべく近い状態で、ホテルや宿を発つ」ということ。
掛け布団が乱れたままで部屋をあとにするとか、ゴミをまき散らしたまま退出するとか、そういうことをしないように心がけています。
あとから掃除する係りの人のことに思いを馳せるほど気配りある行動をとろうとすれば、おのずと、ほかの係りの人にも丁寧にふるまえるからです。
『仕事ができる人は店での「所作」も美しい 一流とつき合うための41のヒント』朝日新聞出版
所作の美しさが必要なのは、何も高級店だけの話ではない。
ファミレスであろうが、ファーストフードであろうが、「お金を払っているから客だ」という姿勢は嫌われる。
同時に、それは飲食店だけでなく、コンビニだろうが、他のお店でもその姿勢が出てしまう。
ファミレスで、床やテーブルに食べ散らかしたまま帰る客。
子どもが通路を騒ぎまわっているのに注意もせず、話に夢中な客。
トイレの洗面台や床をびしゃびしゃのままにして帰ってしまう客。
そして、威張(いば)る客。
反対に、ホテルの客室を片づけて帰るのと同じように、飲食店でも、食べ終わった器を下げやすいように片隅に寄せ、テーブルをきれいにしてくれる客もいる。
新幹線でも同様に、降りるとき、倒した席をちゃんとなおし、まわりのゴミをちゃんと持ち帰る人もいる。
誰に対しても、敬意を持って丁寧に接する人の所作は美しい。
「自分は客だぞ」と威張る人は見苦しい。
所作が美しい人でありたい。 |
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