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2016.6.3

「隠しぼめ」の効果

心理学者、渋谷昌三氏の心に響く言葉より…

映画監督の山田洋次さんが演出家として駆け出しの頃のことです。

テレビドラマで初めて渥美清さんを演出することになりました。

山田洋次さんは、渥美清さんという喜劇役者としての才能を高く評価していました。

しかし渥美さんのほうは山田さんをあまり良くは思っていないという噂も、山田さんの耳には入っていました。

経験や境遇が違い過ぎるのです。

渥美さんは小さな劇場の幕間にやる余興のコント役者として芸を磨いてきた熟練者です。

片や、山田洋次さんは東京大学を出たエリートです。

渥美さんの中には、3歳年下の山田さんが「アタマでっかちの、青臭いことを言う演出家」といった先入観が働いていたのでしょうか。

「そんなヒヨッコに、つべこべ言われたくない」という反発心があったのかもしれません。

さて渥美さん主演のドラマを取り終えた際、山田さんには「渥美さんと仕事をするのも、これが最初で最後。もうご一緒することもあるまい」という思いがあったそうです。

と、意外にも渥美さんのほうから、

「あんたとは、また一緒に(仕事を)やりたいね」

と、ひと言。

山田さんは、うれしさがこみあげてきたそうです。

この「また一緒にやりたいね」という言い方、ストレートなほめ方ではありませんが、「山田さんの仕事を評価している」という含意が伝わり、それが山田さんの気持ちを動かしています。

これは見事な「隠しぼめ」です。

誰かと会って、とても楽しいひとときをすごすことができたとしましょう。

相手の人柄も気に入りました。

しかし、ほめ言葉がうまく出てきません。

お互いに独身同士、相手が異性であるという状況ではなおさら照れくささが先に立ちます。

そんな場合は、この「また」を使い、「あなたを気に入りました」「今日は楽しかった」というメッセージを発信してほしいものです。

「またお話を聞かせてくださいね」

「また誘ってくださいね」

「またご一緒しましょう」

どうという会話ではありませんが、相手は「自分の存在が認められた」という思いになります。

これは、「ほめられる」に通じる心理です。

どれも相手をストレートにほめているのではありません。

けれども相手は「ほめられた」と感じ、それまでの不安が解消します。

メッセージがじわりと伝わる、これが「隠しぼめ」の真理効果です。

『人の2倍ほめる本 (WIDE SHINSHO 223)』新講社ワイド新書


人間関係がよくなる事の一つに、「陰(かげ)ぼめ」や「隠(かく)しぼめ」がある。

「陰ぼめ」とは、本人がいないところでその人を褒めること。

「隠しぼめ」とは、ストレートにほめるのではなく、さりげなく、奥ゆかしく、相手を認めることによってほめること。

「あなたがいてくれてよかった」「ありがとう、いつも助かります」「あなたが来てくれるだけで皆、明るくなる」等々の存在の肯定。

「存在の肯定」の反対は「存在の否定」。

「存在の否定」とは、「出て行ってくれ」「バカヤロウ」「おまえがいるからうまくいかなくなる」「もう二度と会いたくない」等々。

「また会いたい」という「隠しぼめ」は、人間関係をよくする最高のことば。



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