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2016.5.29

自己重要感を高める「気くばり力」

植西聡氏の心に響く言葉より…

ある大学で起きたちょっとしたハプニングを紹介しましょう。

それは日本史を教えている教授の授業中に起こりました。

教授が黒板に「薩摩と長州が討幕を果たすことに成功する」と書いたとき、一人の学生が教授にこう指摘しました。

「今、黒板に討幕と書きましたが、最終的には薩摩と幕府の話し合いで、江戸城が明け渡されたわけですから、この場合、“倒幕”という表現のほうが正しいのではないでしょうか」

こう言われた教授は、「なるほど。その通りだ」と素直に誤りを認め、黒板に書いた文字を改めようとしたのですが、学生のそのあとの一言がよくありませんでした。

「先生は歴史学者なのですから、正確な記述をお願いします」

この一言で教授は激怒しました。

そしてそのまま教室から出て行ってしました。

以来、その学生は教授から嫌われ、満足に口もきいてもらえなくなったといいます。

ここで問題です。

教授はどうして激怒したのか。

なぜ授業をボイコットして教室から出て行ってしまったのか。

これは、人間の本能的な欲求の一つである“自己重要感”と関係しています。

人間は大なり小なり、「その場において重要な存在でありたい」「他人よりも優れていたい」「人から敬われたい」という欲望を抱いています。

それをないがしろにされると、思わずカッとなったり、キレてしまうことがあるのです。

この自己重要感は生理的な欲求などよりもはるかに強く、その人の年齢や地位とともに強まっていく傾向があります。

教授は、「先生は歴史学者なのですから、正確な記述をお願いします」と言われたことで、ほかの学生の前で恥をかかされ、教授としてのプライド、つまり自己重要感をいたく傷つけられてしまいました。

そこから逆に、人を喜ばせるための大きなヒントを得ることができます。

「その場において重要な存在でありたい」「他人よりも優れていたい」「人から敬われたい」という人間特有の心理作用を逆手にとって、相手の自己重要感を高めるように努めれば、相手を喜ばせることができるからです。

こういうと、いかにも難しそうに思えるかもしれませんが、やり方はとても簡単です。

■その道のエキスパートと呼ばれる人のことは「先生」と呼ぶ。

■目上の人やお世話になった人と食事をするときは、相手を上座に座るように誘導する。

■スピーチが得意な人がいたら、結婚式などの主賓として挨拶をお願いする。

このように、相手のプライドや自尊心にかかわる部分に理解、関心を示し、それをさりげない態度で表すだけでかまいません。

相手の得意なことについて尋ねてみるのもいいでしょう。

おしゃれな先輩がいたら、「どうやったらそいうカッコイイ着こなしができるんですか?」と言ってファッションのコツを聞きだしたり、料理が上手な同僚がお弁当を持参したら、「この料理、おいしそうね。どうやってつくるの?」と尋ねれば、相手だって悪い気はしません。

むしろ、優越感が満たされることで愉快な気持ちになり、そう言ってくれた人に対して好感を寄せるでしょう。

誰に対しても、それを行うことができれば、みんな気分が良くなり、そのぶんだけ、宇宙銀行にたくさんの預金を積んだことになります。

オーストリアの精神科医アルフレッド・アドラーもこう言っています。

「他人とうまくつきあうには、相手がなんとか自分を優秀に見せようと、躍起になっていることを念頭におくことだ」

『(文庫)運のいい人は知っている「宇宙銀行」の使い方 (サンマーク文庫)』


上の人の機嫌をとったり、へつらったりすることを「おべっかを使う」と言う。

「おべっかを使う」という言葉は、いい意味では使われない。

しかし、「おべっか」を、意図して行う「気くばり」や「人を喜ばせること」「気分よくなってもらうこと」と捉えるなら、人間関係にとってこれほど大事なことはない。

『戦略おべっか』(講談社)という本にこういう記述がある。

「人間、若い間は『正面の理』しか見えていないものだ。

だが、実社会で経験を積むうちに、いつしか、人間を動かすのは、『理』よりもむしろ、多くの場合『情』や『恐怖』の方だということを思い知らされる。

そして、その『情』を動かすための最短距離の方策が、『戦略おべっか』なのだ。

『戦略おべっか』とは、得意先や上司に対し、自分に有利な判断を下させるため、『理』を超えて『情』に働きかけるための、具体的な『気くばり』の方策である」

人は、理屈では動かず、「情」で動くとはよく言われることだ。

相手の自己重要感を高める「気くばり力」を身につけたい。



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