2016.4.12 |
|
遠きをはかる |
|
|
伊那食品工業会長、塚越寛氏の心に響く言葉より…
「会社とは何のためにあるのか」「会社にとって成長とは何だろうか」と考え始めるようになったのは、入社して25年を過ぎた頃だと思います。
長い間考え続けて得た結論は、「会社は、社員を幸せにするためにある。そのことを通じて、いい会社を作り、地域や社会に貢献する」というものでした。
それを実現するためには、「永続する」ことが一番重要だと気が付きました。
会社が永続できなければ、どこかで社員の幸せを断ち切ることになってしまうからです。
二宮尊徳の言葉に「遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す」というものがあります。
25年ほど前になるでしょうか、「会社は永続することに価値がある」と考え始めた頃に、この言葉に出会いました。
私は、はたと気が付きました。
そうだ、会社を「いい会社」にして永続させるためには、「遠きをはかる」ことだ。
以来、「遠きをはかる」ことが、私の経営戦略となりました。
「遠きをはかる」は言うに易(やす)く、行うに難しです。
最近ではますます「遠きをはかる」ことが困難な状況になってきました。
会社は短期間で利益を上げることが、求められるようになったからです。
極端に言うと、「今が良ければ良い」「数字が良ければ良い」という経営がまかり通ってしまうことになります。
そこで思い出されるのが、アメリカの大手証券会社だったリーマン・ブラザーズの経営破綻です。
2008年9月、リーマン・ブラザーズは64兆円(当時の円換算で)もの負債を抱えて倒産しました。
つい数年前まで、サブプライム関連商品で莫大な利益を出し、経営者は10億円を越える報酬を手にし、社員でも年収3000万クラスはザラだったということでした。
その巨大証券が、突如として倒産したのです。
誰もが耳を疑ったことでしょう。
これなども、目先の利益におぼれて、「遠くをはかる」ことを怠った典型例だと思います。
今でも、テレビに映った、段ボール箱を抱えて社屋ビルから退去する社員の姿が甦(よみがえ)ります。
アメリカ型の資本主義、個人主義の行き着く先を見た気持ちでした。
アメリカ型の経営手法は、人を幸福にしないと感じます。
少なくとも、私の経営理念とは相容れないものです。
私は二宮尊徳の次の言葉を「経営戦略」の柱としてきました。
今なお少しも古びていません。
遠きをはかる者は富み
近くをはかる者は貧す
それ遠きをはかる者は百年のために
杉苗を植う
まして春まきて秋実る物においてをや
故に富有り
近くをはかる者は
春植えて秋実る物をも尚遠しとして植えず
唯眼前の利に迷うてまかずして取り
植えずして刈り取る事のみ眼につく
故に貧窮す
『リストラなしの「年輪経営」: いい会社は「遠きをはかり」ゆっくり成長 (光文社知恵の森文庫)』
「思考の三原則」という安岡正篤師の言葉がある。
第一は、目先に捉われないで、出来るだけ長い目で見ること
第二は、物事の一面に捉われないで、出来るだけ多面的に、出来得れば全面的に見ること
第三は、何事によらず枝葉末節に捉われず、根本的に考えるということ
物の見方は、長期的に見るか短期的に見るかで結論がまるっきり違う。
同様に、一面的に見るか多面的・全面的に見るか、あるいは、枝葉で見るのか根本的・本質的に見るのかで結論は変わってくる。
「遠きをはかる」のと「近くをはかる」のとでは方向性や行動はまるで違うのと同じだ。
今だけ良ければいいと思って刹那的(せつなてき)に生きる生き方は寂しい。
「遠きをはかる」とは、長く続くことでもある。
毎日の徳積みをコツコツと長く続けること。
毎日を、損得や効率だけのモノサシで生きていく目先の生き方とは違う。
遠きをはかる生き方を目ざしたい。 |
|