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2016.3.15

ユーモアの流儀


小田島雄志氏の心に響く言葉より…

自分を意識的におとしめてユーモアを感じさせるのは、ある意味で楽な行為である。

自分がばかであるふりをすれば、相手は優越意識をもちうるし、優越感をもてば、ベルグソンの説によれば、笑うことができるからである。

だが、しくじるとみじめな思いをすることになる。

たとえば、失敗談をすれば笑ってもらえるかというと、そうとはかぎらない。

名文家と言われる人が、つい字を一つまちがえた話をすれば「弘法にも筆の誤り」とフォローしてもらえるが、いつもセリフをトチッている役者が、今日もまたトチッちゃった、と言えば、荷物をまとめて故郷に帰れ!とどやされるのがおちである。

気をつけなければならないのは、自分のダメなところを見せるとき、謙虚な、それでいて余裕のある姿勢をもってのぞむべきであって、卑屈な、卑下するような態度を見せてはならない、ということである。

拙訳のある劇の上演が決まった時。

キャスティングの段階で演出家はヒロインの友達の役をAにするか、Bにするか、迷っていた。

結局、発表になったのを見ると、Bになっていた。

彼に理由を訊ねると、次のように説明した。

AとBを別々に呼んで、同じ質問をしたところ、大事なシーンで一曲歌ってもらうことになるがうまく歌える自信はあるか、という問いに、Aは、「うまく歌える自信なんてありません」とうつむいて答えたのに、Bは、「うまく歌える自信はありません、が」と頭をあげて、「歌う人の気持ちを伝えることならなんとかできるかもしれません」と答え、さらにちょっと胸を張って、「女優ですから」とつけ加え、ニッコリ笑顔を見せた。

「そこでおれもつらてニッコリしてしまったんだよ」とのことである。

『ユーモアの流儀 (The new fifties)』講談社


小田島氏は、自分を意識的におとしめてユーモアを感じさせるとっておきの例として、次のようなエピソードをあげている(同書より)。

■向田邦子さんは、実践女子大の国文科出身だった。

卒業が近づいて就職のために履歴書を書いて提出したら、すぐ呼び出しがきた。

国文科のくせにバレーボールばかりやっていたから…

「…体育科って書いちゃったかな、と思ってふっとんで行ったら、実は学校名を『実賤』って書いてたの、イヤシイっていう字」


■安野光雅さんは、ヨーロッパのどこに行っても、英語を話せる人がいるから、英語さえしゃべることができたらことばで困ることはない、と思っていた。ところが…

「一度、英語でさんざんしゃべったあとで、肝心なことを話さなければならないときに、相手が、フランス語じゃダメか、と言うから、ダメだと。イタリア語は、ドイツ語は、と訊くから、ダメだ、と言ったら、じゃあ、英語はどうか、と言う。そのときはショックでした」


失敗談やドジ話はユーモアには鉄板ネタだ。

しかし、いつもあまりにも失敗やドジが多い人がそれを言ったら、シャレにならない。

思いもよらないこと、相手の予想を裏切ることを言うからオチになる。

ユーモア力を身につけたい。


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