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2015.10.29

見る前に跳ぶ


筑波大学名誉教授、村上和雄氏の心に響く言葉より…

井深さんは、ソニーが国産初のテープレコーダー開発、トランジスタ導入に成功したことについて、こう述べられています。

「テープレコーダーもトランジスタも、もし深く理屈がわかっていたら、恐ろしくてできなかったでしょう。

あとで知って、よくも向こう見ずにこんなことをやったものだと思いました」

知識や情報量そのものが悪いとは思えません。

ただ、自分が人よりよけいに知っていると、ほかの人より正しい判断ができるという思いこみが生まれ、その知識に頼る気持ちが勘を鈍(にぶ)らせるのだと思います。

あるいは、知識によって先を読んでしまうことも、マイナスに作用する一因でしょう。

とくに研究がうまくいかないとき、なまじ知識があるばかりに、すぐに結論を出してしまいます。

そこには、「やっぱりダメだろう」という先入観があるように思われます。

畑違いの遺伝子工学の分野に足を踏み入れようとしたとき、「先生、大丈夫なんですか」と、否定的な考えを口にしたのは、偏差値秀才タイプの学生たちでした。

もちろん、大丈夫なんて保証はありません。

でも、大丈夫でないという保証もないのです。

なにごともやってみなければわからないし、画期的な技術だから、やってみるだけの価値はある、というのが私の考えでした。

一方、好奇心旺盛(おうせい)なスタッフは、「おもしろそうだからやりましょう」と賛成してくれました。

この「おもしろそう」というところが大事で、こういう人は、たとえすぐにはうまくいかなくても、興味があるうちは投げ出さないで続けるため、よい結果が出ることが多いのです。

少なくとも独創性を必要とする世界では、知識や情報に頼りすぎると、遺伝子は眠ったままで、あまりいい結果は出ません。

いい遺伝子をONにするためにも、知識のある人はいったん知識を忘れたほうがいいし、過去の経験はシャットアウトして、とりあえず、目の前のことに集中することです。

遺伝子ONのために強調しておきたい点の一つは、それがプラスかマイナスかなどと考えるひまを自分に与えず、ともかく、やってみることです。

できるかできないか、効果的かどうか、そんな評定は後回しにして、とにかくものごとをはじめてみることが大事なのです。

そして、いったんはじめたら、どこまでもやりつづける。

途中でつまったら、やりなおす。

むやみに疑念や逡巡(しゅんじゅん)をさしはさまない。

愚鈍(ぐどん)でも泥臭(どろくさ)くてもいいから、思いこんで、バカみたいな単純さでやりつづける。

本当に前向きな人というのは、そういうことに機械のように専念できる人です。

人は先のことを考えたり、ものごとの成否を考えすぎたりすると、どうしてもマイナス思考におちいりがちで、限界意識が先立ちやすいものです。

そういうときは、多少のむちゃを覚悟で、思いきって火中に飛びこんでみるべきです。

よけいなことは知らないほうがいい。

とりあえず目の前のことだけに集中する。

すると意外に道が開けてくるものです。

「見る前に跳(と)ぶ」

この前向きな姿勢が、遺伝子ONにはとても有効なのです。

『生命のバカ力 (講談社+α新書)』


「泣こよか ひっ飛べ」

という、薩摩(鹿児島)に伝わる言葉がある。

小さな子どもが、高いところから飛べずに躊躇したり、川の向こう岸に跳べなくて泣きそうになっていると、「泣くひまがあったら、思い切って飛んでしまえ」と。

ぐずぐず考えずに、行動しろ、ということ。

現代人は考えすぎる。

考えて考えて、結局は行動しないことが多い。

「見る前に跳ぶ」

愚鈍に泥臭く、いつも前向きに行動する人でありたい。


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