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2015.10.4

松下幸之助さんの聞く力


前PHP研究所社長、江口克彦氏の心に響く言葉より…

松下幸之助さんという人は、近現代の日本を代表する経営者だが、けっして独断専行型の天才ではなかった。

常に人に話を聞きながら、人にものを尋ねながら経営を進めていった。

社会のこと、政治のこと、経済のこと、とにかく何でも「君はどう思う?」「この件はどうしたらいいと思う?」と聞いて回る。

そうやって膨大(ぼうだい)な量の情報を手に入れ、それを頭の中で整理しながら決断を下していったわけである。

松下さんは、特に社員の話にも非常に熱心に耳を傾けた。

社長が社員の話に耳を傾けると、双方に二つずつのメリットが生まれる。

社員にとっては、社長が一所懸命に話を聞いてくれれば、まず「やる気が出る」ようになる。

また、社長が喜ぶような情報を持っていこうと「勉強する」ようになる。

社長にとってのメリットの一つ目は「社員から尊敬される」ようになることだ。

社員の話をないがしろにしたり、途中でさえぎったりする社長に、絶対に社員はついてこない。

社員に素直にものを尋ね、意見を求める社長こそが、尊敬され、信頼されるのである。

二つ目は、何よりも自然に「情報が集まってくる」ようになるメリットだ。

松下幸之助さんのところには、日々ひっきりなしにいろいろな人が訪れる。

そいう人たちの話を聞くとき、松下さんは「その話は前に聞いた」とか「それは私の考えていることと同じだ」という応対を、ただの一度もしたことはなかった。

いつもいつも「君はいいこと言うな」「君はなかなか賢いな」というふうに感心しながら聞く。

椅子から身を乗り出し、相手の眼をじっと見ながら真剣に聞くのである。

これにはみんな感激する。

「あの松下幸之助さんが私の話を真剣に聞いてくれた。そして話の内容に感心してくれた」と思うのである。

すると人間とは不思議なもので、何か面白い情報が入るたびに、

「よし、これを松下幸之助さんのところに持っていこう」「この話は松下の大将の耳に入れておこう」

という気になってくる。

結果として、自然と膨大な情報が入ってくることになる。

一日に入れ替わり立ち替わり人が来るわけだから、当然、同じ情報もある。

しかし松下幸之助さんは、すべての話を初めて耳にするような雰囲気で聞く。

それは、たとえ同じ情報であったとしても、話す人によって視点が少しずつ違うからである。

松下さんは、一つの事実についても、さまざまな角度から複数の情報と意見を得て、いつも熱心に聞き比べた。

できるだけ多くの人から情報を手に入れること。

そして、それらをすべて頭に入れた上で判断すること。

これは、いくらテクノロジーが発達した時代になっても、昔と変わらぬ仕事の鉄則であろう。

ある日の午前中、松下さんの執務室で私は、

「なあ江口君、今度、○○ということをやろうと思うんやけど、君はどう思う?」

と尋ねられた。

すばらしいアイデアだと思ったので、私は「それはいいですね」と答えた。

するとその日の午後、松下電器のある役員が松下幸之助さんのところへ来て、

「今度、○○ということをやりたいと思うのですが、いかがでしょう」

とアイデアを提案した。

その○○というアイデアは、午前中に松下さんが私に話してくれたのとほぼ同じものだった。

だから私は、松下さんが「それはわしも考えていた。午前中に江口君に話していたところなんだ」と言うと思った。

しかし、松下さんはそうは答えなかった。

ウンウンと頷くと、

「君のそのアイデアはなかなかいいな。よし、すぐにそれをやろう」

と応じたのである。

これが松下幸之助さんのやり方だった。

自分の立場も、自分の面子もどうでもよかった。

社員にやる気を出させ、生き生きと仕事をさせることが第一義だったのである。

思えば松下幸之助さんは、持ってきた情報そのものを評価するのではなく、持ってきた人の努力や勇気を評価していたのだ。

「よく、わしのところへ話しに来てくれたな」

「その情報を持ってくるためには、大変な勉強が必要だったろうな」

そんな気持ちだったに違いないし、実際、そのように口に出しもした。

松下幸之助さんはけっして「今は忙しいから、後にしてくれ」とは言わなかった。

アポイントメントが入っている場合は別として、よほどのことがない限り、その社員を部屋に入れ、話を最後まで聞いた。

「時間がないから、その辺りでやめてくれ」とも絶対に言わなかった。

これは簡単なようで、実はなかなかできることではない。

『猿は猿、魚は魚、人は人 松下幸之助が私につぶやいた30の言葉 (講談社BIZ)』講談社


「人の話を聞くことにより、人生の80%は成功する」(デール・カーネギー)

人の話を聞くことほど重要なことはないが、同時に、人の話を聞くことほど忍耐が必要なこともない。

なぜなら、人は、聞くことよりも、話したくて話したくて仕方のない生き物だから。

人には、自分を認めて欲しい、ほめて欲しいという承認欲求がある。

話を真剣に聞いてもらえると、その承認欲求が満たされる。

相手の話をしっかり聞いているよ、というサインは、「うなずく」「相づちをうつ」「相手の眼を見る」そして、「身を乗り出す」。

聞く力を身に付けたい。


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