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2015.8.23

何があっても天災と思う


医学博士、鴨下一郎氏の心に響く言葉より…

事故によって電車のダイヤが乱れたときなど、案内の駅員をつかまえて、「どうなっているんだ」と腹を立てている人を見かけることがあります。

案内の駅員に腹を立てれば、電車が早く走り出すのであればいいですが、怒ろうが、騒ごうが、電車は走るときにならなければ走りません。

「どうしようもないこと」に腹を立てても血圧が上がるだけです。

その影響を受けて動脈硬化が促進され、心臓への負担も増すでしょう。

健康に悪い作用しかないのに、なぜ、どうしようもないことに腹を立てるのか。

落語に『天災』という話があります。

長屋住まいの八五郎は、とにかく短気で、怒りっぽい。

そんな八五郎に、ご隠居さんが「何があっても天災と思え。天とケンカはできぬのだから」と教えます。

道を歩いているときに、商家の丁稚(でっち)に撒き水をひっかけられた。

丁稚にひっかけられたと思うから、腹が立つ。

天災、つまり「どうしようもないこと」と思えば、腹も立たない。

仕方ないと、あきらめられる。

屋根から落ちてきた瓦が、頭にぶつかった。

その家の住人の責任だと思うから、腹が立つ。

瓦は天から落ちて来た。

これも天災、いわば「どうしようもないこと」と思えば、腹も立たない。

仕方ないと、あきらめられる。

…というわけですが、腹が立つことがあったら、このご隠居さん教えに従ってみるのも、ひとつの方法だろうと思います。

ご隠居さんの教えにしたがえば、電車がこないのも、天災。

職場の上司が、ものわかりの悪いガンコ者であったとしても、腹を立ててはいけない。

怒ったところで、上司がものわかりのいい上司になってはくれないのですから、これも天災。

昼メシに入った食堂の定食がマズかった。

これも天災。

これは「どうしようもないことなんだ」と思って上手にあきらめれば、腹立たしくなることもないでしょう。

ここで私がいいたいことは、「どうしようもない」とあきらめると、「ならば、こうしよう」という、いいアイデアが思いつくことがある、ということです。

電車がストップしている。

しょうがない…

「そうだ、この空き時間を使って、カバンの中の書類に目を通していこう」

「携帯電話で、あの人への連絡をすませておこう」

「最近、寝不足だったのだ。ちょうどいい。コーヒーショップで昼寝していこう」

といった具合に、です。

こう考えれば、腹は立たず、むしろ気持ちが明るくなるのではないでしょうか。

天災だから、どうしようもないとあきらめるのも、「腹立ち」「怒り」という感情から遠ざかって、状況を客観的に判断する手段のように思います。

『「機嫌のいい人」に人は集まる--「腹を立てない」ですむこころの処方箋 (WIDE SHINSHO190)(ワイド新書) (新講社ワイド新書)』


荘子に興味深い寓話(ぐうわ)がある。

「川に浮かんでいる空舟(からぶね)が、自分の舟にぶつかってきても誰も文句は言わないが、もしその舟に人が乗っていたら怒り出す」

まさに、空舟がぶつかるとは、天災のこと。

電車や飛行機の遅れ等のトラブルを他人事(ひとごと)ように客観的に見ることができれば、その場を切り抜けるいいアイデアがいくつも湧いてくる。

しかし、トラブルを、自己中心的な主観でしか見ることができなければ、いつまでたっても「怒り」や「腹立ち」という感情から抜け出すことはできない。

トラブルを客観的に見ることができる最良の方法は、何があっても天災と思うこと。

腹を立てずに、いつも上機嫌で生きてみたい。


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