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2015.6.13

もう一歩踏み出す勇気と優しさ

ノートルダム清心学園理事長、渡辺和子氏の心に響く言葉より…

花粉症で多くの人が悩んでいた頃のことでした。

一緒に住んでいる修道院のシスターの一人が私に、

「昨夜は鼻が詰まって、夜中まで眠れなかった」と話し、私はそれに対して、

「あら、シスター、お薬をちゃんとお服(の)みになったの」と答えたことがありました。

答えて、別れた後で私は反省しました。

なぜあの時、まず「辛(つら)かったでしょう」と言ってあげられなかったのだろうかと。

というのも、以前聞いた一人の方の話が心に残っていたからでした。

その方が入院中、幾夜か眠れない日が続いたので、そのことを主治医に訴えたのだそうです。

すると医師の答えは、次のようでした。

「では、お薬の量を増やすか、別の薬を出してみましょう」

同じことを、病室を訪れた看護師さんに話したところ、

「そう、辛かったでしょう。夜が長く思われたでしょうね」

という言葉が返ってきて、その人は、救われた思いがしたと話してくれたのでした。

主治医の応答は、妥当で非の打ちどころのないものだったに違いありません。

でも、それは職業的な処置であって、必ずしも患者の心の痛みを癒すものではありませんでした。

それに比べて、看護師さんの応答には、共感とぬくもりがあったのです。

花粉症に苦しむシスターへの私の応答も、不親切ではなかったけれど、親切なものでもありませんでした。

私たちの日々の生活の中には、この「不親切ではないけれど、親切でない」ものが、結構多いのではないでしょうか。

もう一歩踏み出す勇気と優しさに欠けていることが。

マザー・テレサは、共に働くシスターたちが町へ出て貧しい人たちに暖かいスープを配り終えて帰ってくると、まず「ご苦労さま」とねぎらってから、

「行列をしている人たちにスープボールを渡す時、ほほえみかけること、ちょっと手に触れてぬくもりを伝えること、短い言葉がけをすることを、忘れなかったでしょうね」と尋ねるのが常だったといいます。

自分たちがしていることは、「福祉事業ではない。一人ひとりの魂と関わることなのだ」と言って、政府からの援助を断り続けていたマザーは、やはり機械的な作業ではない人間のぬくもり、言葉、タッチを大切にした人でした。

『忘れかけていた大切なこと (PHP文庫)』PHP文庫


仏教には、「無財の七施(しちせ)」という教えがある。

自分にお金や財産がなくてもできる、七つの徳を積む方法だ。

それは…

眼施(がんせ)という、「やさしいまなざしで人に接すること」

和顔施(わがんせ)という、「にこやかな笑顔で人に接すること」

言辞施(ごんじせ)という、「ありがとうございます、お世話になります、お疲れさまです等の、やさしい言葉で人に接すること」

身施(しんせ)という、「お年寄りや子どもを連れた女性などがいたらドアを開けて待っている等の、自分の体を使ってできることで奉仕すること」

心施(しんせ)という、「思いやりの心を持って、まわりに心をくばること」

床座施(しょうざせ)という、「バスや電車でお年寄りや体の不自由な方に、席や場所を譲ること」

房舎施(ぼうじゃせ)という、「お客を温かく迎え、癒(いや)しの場所を提供すること」

サービス業の接客においても、「ほほえみ」や「会釈(えしゃく)」、「短い言葉がけ」といった、もう一歩踏み込んだ言葉や動作があると、その接客になんともいえない温かさを感じる。

反対に、機械的なマニュアルの接客は、「冷たい」と言って非難される。

冷たく感じる人の応対には、用件を伝えるだけで、そこにプラスされたぬくもりのある言葉や動作が足りない。

これは、接客だけでなく、日常の人間関係でも同じ。

すべての人間関係には…

もう一歩踏み出す勇気と優しさが必要とされている。



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