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2015.5.30

クールジャパン!

鴻上尚史氏の心に響く言葉より…

2006年4月からNHKのBS放送で『cool japan』という番組の司会をするようになりました。

ありがたいことに、番組はずっと続いて、10年目に突入しました。

2009年10月に放送した100回記念番組の時に、世界各国100人の外国人にアンケートを取りました。

それまで、番組で取り上げたもので、これはクールだと思ったものをあげてもらったのです。

その中のベスト20は次のようなものでした。

一位、「洗浄器付き便座」

二位、「お花見」

三位、「100円ショップ」

四位、「花火」

五位、「食品サンプル」

六位、「おにぎり」

七位、「カプセルホテル」

八位、「盆踊り」

九位、「紅葉狩り」

十位、「新幹線」

十一位、「居酒屋」

十二位、「富士登山」

十三位、「大阪人の気質」

十四位、「スーパー銭湯」

十五位、「自動販売機」

十六位、「立体駐車場」

十七位、「ICカード乗車券」

十八位、「ニッカボッカ」

十九位、「神前挙式」

二十位、「マンガ喫茶」


十三位の「大阪人の気質」について。

番組でこういう特集を組んだのです。

それは、外国人の中から、「どうも大阪人は、私たちがイメージしている日本人と違う」という声が聞こえてきたらからです。

内気で恥ずかしがり屋で、奥ゆかしい、思ったことをなかなか口にしない、という日本人のイメージと、どうも大阪人は合わないと言うのです(僕が言っているんじゃないですよ。番組に出た、多くの外国人が口を揃えて言っているのです)。

それほど言うのなら確かめてみましょうと、2009年、大阪でロケをしてみました。

やることは簡単。

外国人が、街を歩く大阪人に突然、葵(あおい)の印籠を見せて「コノインロウガメニ ハイラヌカ!?」とたどたどしい日本語で言うだけです。

日本に住んでいる人ならみんな知っている『水戸黄門』のパロディーです。

呆れたことに、いえ、驚くことに、印籠を尽きつけられた大阪人は、九割近い人が、「ははあ〜」と言いながら、ひれ伏す真似をしました。

ロケ地が大阪城の近くだったので、ひれ伏さなかった残りの一割は大阪以外から来た観光客なんじゃないかと僕たちは想像しました。

二〇人がぐらい土下座の真似をしてくれる人を集めるのに、二時間はかかるかなと考えていたのに、二〇分で予定人数は集まりました。

東京で、事前にロケをしましたが、誰一人、やってくれませんでした。

印籠を突きつけられた人はみんな、戸惑い、ポカンとし、照れ笑いをしながら、「えっ?なんですか?」「印籠ですね…」「ごめんなさい」などと反応しただけでした。

大阪の結果に、外国人も番組スタッフも僕も、大笑いして感動しました。

「これは、まるでラテンのノリなんじゃないの?」と口々に言いました。

歩いている人の前で突然、バナナを取り出し「ハイ モシモシ チョットマッテクダサイ」と言い、相手に「デンワデス」とバナナを差し出すというネタもやりました。

これまたほとんどの大阪人は、当然のようにバナナを受け取り、「はい、もしもし」と耳に当て、すぐに「バナナやないかい!」と外国人に突っ込みました。

業界用語で言う「ノリツッコミ」ですね。

一回、相手のボケに乗って、その後、突っ込むという技です。

バナナを突き出され、一瞬、戸惑う子供に、横で「アホ、ちゃんと受けんかい。もしもし、やろ」と、ノリを指導する父親もいました。

どうしてそんなことを言うんですか?と訊けば、「いや、当然のことでしょう」としごく普通の顔で答えてくれました。

実は、「回転寿司」も「カラオケ」も「インスタントラーメン」もすべて大阪で生まれて世界にひろまったものです。

どれも、感動的な発明というよりは、思いついた時にはちょっと笑ってしまう雰囲気があります。

いえ、バッタもんの匂いさえします(笑)。

でも、たいていの発明は、最初のとっかかりはバカバカしかったり、恥ずかしかったり、くだらなかったりするものじゃないかと思います。

笑われても試行錯誤を続けることで、世界に通じる発明になるのでしょう。

こういうものを発明できたのは、くだらないことを言って笑われることを、たいして気にしない文化に育っているからじゃないか。

くだらないことを思いつき、言い出し、製品化することに抵抗が少なかったんじゃないかと考えるのです。

それともうひとつ「オレオレ詐欺」「振り込め詐欺」は、大阪では発生件数がとても少ないのだそうです。

電話を受けた母さんが、「あんた、誰や?」と徹底的に突っ込むからでしょうか。

これまた不思議ですが、なんとなく納得する大阪人の特徴です。

ベスト20を発表すると、たいてい、この十三位に質問が集中します。

でも、外国人が面白がっているのですから、堂々の十三位入賞なのです。

『クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン (講談社現代新書)』講談社現代新書


大阪の人に話す時は、オチがない話をすると怒られる、と聞いたことがある。

面白くないヤツ、と相手にされない。

子どもの頃から、常に面白いネタを探し、面白い話をすることが習性となっているのが大阪人だからだ、という。

それは、「アホになれ」ということでもある。

「アホになれ」には、見栄を捨てろ、世間体を気にするな、自分の殻をやぶれ、非常識を恐れるな、失敗を気にするな、等々の意味が込められている。

そして、その根底には、正しいか正しくないかではなく、楽しいか楽しくないか、面白いか面白くないか、という価値観がある。

これは、何も大阪人だけではなく、自分の殻をやぶろうとしているすべての人に必要な気質だ。

大阪人気質を学びたい。



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