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2015.5.5

ひとつひとつかたづける

渡部昇一氏の心に響く言葉より…

チャールズ・ラムは、30年間インド商会に勤めていた。

その30年間、毎日毎朝10時に出勤して、午後4時まで勤務して家に帰るという、判を押すような生活を送っていた。

当時はバカンスなどまだなかったから、休むのは日曜日とクリスマスぐらいのものだったと思われる。

ラムは夜の時間を読書と著述にあてていたが、いつも、もし自分に昼間の勤務の時間がなかったらどんなにいいだろう、どんなにたくさんいいものが書けるだろうと、勤め人の身の上を悲しく思っていた。

ところが、ラムの希望が満たされるチャンスがやってきた。

インド商会がラムの長年の勤務に感謝して、ラムを休職にして、その上で恩給を与えることに決めたのである。

これを聞いてラムは非常に喜んだ。

たとえ10万円やるからもう10年辛抱しろと言われても、あの囚人のような生活に戻るのは嫌だと思った。

彼は嬉しさの余り、友人である詩人のバートンにこんな手紙を書いた。

「私は自由の体になったのだ。

私はこれから50年は生き延びるだろう。

私の暇な時間を少し君に売ってあげたいものだ。

確かに人間のすることで一番よいことは、何もしないで遊んでいることで、熱心に働くことはおそらくその次によいことだろう」

それから2年が経った。

長い飽き飽きした2年だった。

この間にラムの心境は全く変わっていた。

会社員や普通の役人のような平凡な仕事、決まった一つの仕事を毎日繰り返すこと、毎日毎日コツコツ働くことが、今ままで気づかずにいたけれど、実際は自分にとっての薬であることを知ったのである。

ラムは再び友人のバートンに手紙を書いた。

「人間にとって、少しも仕事がないのは、仕事があり過ぎるよりも悪いものだ。

暇であると、自分で自分の心を食うことになるが、およそ人間の食う食物のうちで、これほど不健全な食べ物はない」

チャールズ・ラムは美しい随筆や文学作品を残した人である。

その執筆のために自由な時間を乞(こ)い求めたのだが、その望みが叶(かな)ってしまうと、かえって苦しくなってしまうことに気づいたのである。

これは、ヒルティの教えとも通じ合う。

ヒルティは「仕事をする自立」という言い方で表現しているが、公の仕事をきちんとこなしながら、立派な仕事をなしとげている。

多くの人は時間がないことを歎き、それを理由に何もなしえぬまま生涯を終えてしまう。

だが、時間がない中で時間をつくる工夫をすることによって、大きな仕事ができるということも確かにある。

規則的な仕事のある方が、かえって自由時間の活用に結びつくことをラムは示している。

ヒルティも示している。

『人生を創る言葉』致知出版社


「けれど けれどで 何もしない  ひとつひとつ かたづけていくんだよ」

相田みつを氏の言葉だ。

普段から読書をする習慣のない人が、暇になったので急に読書をするようになった、などということはほぼありえない。

忙しい最中(さなか)でも、本を読む人は読む。

もっとお金があったら、もっといい家に生まれていたら、もっといい学校を出ていたら…

そして、もっと時間があったら、と嘆(なげ)く。

うまくいかなかったことを、人のせいにしたり、まわりのせいにする人は、「けれど けれどで 何もしない」。

現状を憂(うれ)えたり、嘆いたりせず…

目の前の一事を、ひとつひとつかたづけたい。



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