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2015.4.10

人を待たせるより

島地勝彦氏の心に響く言葉より…

わたしは学生時代は遅刻魔だった。

ところが社会人になってから、時間厳守の人間になった。

どうしてだろう。

お金をもらうようになったからなのか。

じつに現金な男である。

今ではわたしは必ず約束の時刻より、十分、二十分早く約束の場所にいっている人間に変貌(へんぼう)した。

開高健さんも柴田錬三郎さんも今東光さんも思い出すに時間にシビアな人たちであった。

だから原稿は締め切りよりいつも早くいただいた。

私も三文豪の顰(ひそ)みに倣(なら)って担当編集者に待たせたことは一度もない。

約束の場所に早く着いて読みかけの本でも読んでいると、必ず相手は定刻にやってきて「すみません」という。

インタビューするわたしは、それで十分に優位に立つことになる。

佐々木小次郎を待たせて勝った宮本武蔵がいるが、あれは例外である。

人生はあっという間に過ぎてゆく。

相手を待たせてなんの得があるのか。

人と神の契約説から、欧米人は時間厳守である。

あの忙しい開高文豪はいつも素敵な笑顔をたたえながら三十分前には約束の場所にどっかと座って待っていた。

自由業の身になってから、わたしはほとんど時間に制約を受けなくなった。

朝はいくらでも寝ていられるので、夜は何時まででも読書ができると考えていたのだが、働き者のわたしは朝は八時過ぎに起き、ゆで卵を一個食べて同じマンション同じフロアーにある仕事場《サロン・ド・シマジ》にこもる。

朝九時には原稿を書いている。

朝は脳みそに天使が宿る時間である。

今日も指の先に天使と悪魔が宿ってくれと祈りながら机の前に座っている。

「人を待たせるより、待ったほうがいい」

『はじめに言葉ありき おわりに言葉ありき』二見書房


借りをつくる人からは、運が逃げていく。

その逆の、貸しをつくる人は、運がよくなる。

ただし、貸しはつくっても、その見返りをもとめない人。

「ギブ&テイク」ではなく、「ギブ&ギブ」。

同様に、待つ人には余裕があるが、人を待たせればそこに負い目が生じる。

だから、待たせる人は、借りをつくる人であり、運が逃げる人。

「人を待たせるより、待ったほうがいい」

時間厳守の人でありたい。



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