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2015.3.1

苦労の体験


ひろさちや氏の心に響く言葉より…

自殺の誘惑に抗(こう)しきれなくなった人が、最後に話し相手を求めてかける電話に、「いのちの電話」がある。

この「いのちの電話」の相談員は、別に人生指導やお説教をするわけではない。

電話をかけてきた人と一緒になって危機を乗り越える道を考える、友だちの電話なのである。

仙台で、この「いのちの電話」の相談員をしておられる人から、こんなことを教わった。

相談員を志願される人のうちには、わたし自身がこんな苦労をし、それをちゃんと克服したのだから、自分は立派な相談員になれる…と言ってこられる人がいる。

しかし、そのような人はおおむね相談員には不適格である。

というのは、そういう人は電話をかけてきた人を叱り、お説教をしてしまうからである。

そう言われると、「なるほどなあ…」と思える節がある。

じつは、苦労の体験というものは、マイナス要因なのである。

なぜなら、人間は苦労をすることによって、性格がどうしても暗くなり、いじけた考え方をしてしまう。

そして、努力によって苦労を克服した体験から、すばらしい知恵が身についたかのように思っているが、だいたいにおいてそこで得られたものは処世術にすぎない。

自分が獲得した処世術を他人に押し売りし、そのような処世術を身につけていない人を叱る傾向がある。

それが苦労の体験者の大きな欠点である。

苦労の体験はしないほうがいいし、あまり苦労の体験を持ち上げないほうがいい。

と同時に、苦労を体験しながら、明るく楽天的でいられる人は、ものすごく立派な人である。

わたしはそのような人を尊敬する。

『[愛蔵版]そのまんま、そのまんま』PHP


苦労を乗り越え、それを自分の糧(かて)としている人は素晴らしい。

その苦労の経験を、自らの成長のために使っているからだ。

しかし、それを他人へのお説教や、叱ったりするために使うなら、何のための苦労かわからない。

それは、自慢しているのと同じことだからだ。

「苦労の体験を持ち上げないほうがいい」

苦労話をひけらかす人は、そこに少し驕(おご)りがある。

どんなに苦労しても、明るく軽く、楽天的な人は魅力的だ。


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