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2015.1.20

老人を大事にする社会


聖路加国際病院理事長、日野原重明氏の心に響く言葉より…

成人した自分の子どもよりも、純真な慈(いつく)しみの愛を感じるのはむしろ孫だということは、日本の老人のあいだではよく言われてきたことで、いまさら言うに及びません。

一方、孫のほうは、若い両親からの命令的なしつけにはない、ゆるやかな慈しみの情を祖父母に、敏感に感じます。

少年、少女に成長するなかで、祖父母には甘えを感じつつ、両親より寛大なしつけに心を和ませるのです。

十年以上も前に読んだ小説、『人はふさわしい死を死ぬ』(R・ライト・キャンベル著・晶文社)は、いまでもはっきり心に残っています。

この小説のなかに登場する少年が祖父の死を迎える際に発揮した勇気には、ただただ強い感動を覚えるのです。

それは、次のようなお話です。

少年は祖父から鳩の飼育法を教わり、祖父とともに伝書鳩レースに興味をもちました。

そして何年間かともに伝書鳩レースに参加してきたのでした。

老人は重い病気になって入院せざるをえなくなったのですが、入院前に祖父はよく孫に向かってこう言っていました。

「わしは鳩小屋のあるこの生まれた家のベッドで死にたい」と。

孫は、病院のベッドで最後を迎える重症の祖父をいとおしく思い、早朝病院に忍び込み、病棟のナースにも気づかれないようにそっと祖父をワゴンに乗せて病院から抜け出して家に連れ戻し、そして鳩小屋のあるわが家のベランダにマットレスを敷き、そこに瀕死の祖父を寝かせました。

そして、ちょうど自分たちの飼育した鳩がレースから飛んで帰るのを二人で待ったのでした。

夜が明けてやっと空高く鳩の帰るのを見た少年の喜びは最高潮に達しました。

無事にレースの発着点に帰還した鳩の消息を祖父は孫の口から聞きつつ、静かに目を閉じ、永遠の眠りに入りました。

祖父は望みどうりに鳩小屋のあるわが家で死んだのです。

今の時代は、孫が祖父と一緒に森に行って、猟の手伝いをしたり、鳥の巣をさがしたりすることからはすっかり遠ざかってしまいました。

山や森歩きが少なくなり、街のなかのドームやサーカスやディズニーランドに連れていってもらったりすることが、ときどきある程度です。

大正時代に少年期を過ごした私たちの、古き時代に見られた祖父と孫の人間関係は確かに少なくなりました。

しかし、自然の背景から離れたなかにも両者の関係が何らかの姿で続いていくことを、私は切に望むのです。

仕事での付き合いで忙し過ぎるお父さんの代わりに、祖父が男の子をサッカーや野球の試合に連れて見にいく機会がもたれることを、私は切に願っています。

私は祖父と孫との関係をいつまでも密に保ってほしいと思います。

そこにはお互いの純愛が感じられ、老人はしなやかに老い、子どもは爽(さわ)やかに成長します。

『テンダー・ラブ―それは愛の最高の表現です。』ユーリーグ


子どもは特に、幅広い年齢層とのふれあいが大事だ。

幅が広ければ広いほど、子どもなりにさまざまな知識を得、経験を重ねることができる。

現代のように透明性が要求される時代は、日常のすべてがどんどんとあからさまになり、人はだんだん逃げ場がなくなってくる。

親子関係もそうで、厳しい躾(しつけ)は必要だが、それが反発の余地もないほどあまりにも厳し過ぎるなら、子どもは息がつまってしまう。

これは、仕事における上司と部下の関係も同じだ。

そんなとき、逃げ場となってくれるのが老人。

急成長の若い社員しかいない会社が、時として空中分解してしまうのは年齢構成にも問題がある。

「老人が一緒に暮らしていると、勉強のほかにもいろいろ学ぶことがあると分かるんですね。だから、おだやかな子どもに育つんですよ」(永六輔/新・無名人語録 死ぬまでボケない智恵)

老人を大事にする社会には優しさと思いやりが育つ。


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