2014.12.17 |
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卜伝(ぼくでん)先生の高弟 |
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向谷匡史氏の心に響く言葉より…
武道界の長老と食事をしていて、水が入ったグラスを置く位置について注意されたことがある。
私のグラスが手元に近いため、箸(はし)を伸ばすと当たって倒す危険がある、というわけだ。
「何事によらず、予測できるアクシデントは、最初から避けるべし」…これが武道家の心得だと笑っておっしゃった。
このとき、私は塚原卜伝(ぼくでん)のことを思った。
卜伝ほどの達人になれば、世の中、怖いものなしだろうに、卜伝は無益な戦いは避けることを信条の一つとしていたからだ。
こんなエピソードがある。
技量優秀で、そろそろ免許皆伝を与えようかと、卜伝が思っていた高弟がいた。
あるとき、この高弟が馬の後ろを通ったところ、馬がいきなり後ろ足で蹴り上げてきた。
周囲の人たちが危ない、と思った瞬間、この高弟は、ひらりと身をかわしたのである。
それを目にした人たちは、
「さすが卜伝先生の高弟だ」
と、口々に称賛した。
ところが、この話を聞いた卜伝は違った。
「未熟者め」
と言って、免許皆伝を与えなかったのである。
そして、ある日のこと。
卜伝が歩いていて、馬に出くわした。
高弟と同じ状況である。
卜伝はどうしたか。
馬のそばを避け、遠く迂回(うかい)して、何事もなく通り過ぎていったのである。
それを見て、なぜ卜伝が高弟に免許皆伝を与えなかったか、みんなは納得した…
卜伝のこのエピソードに、長老の注意を重ね合わせ、私は以後、予測できるアクシデントは極力避けるようにしている。
夜、電車に乗るときは、酔っぱらいがいない車両を選んで乗る。
声高に話す行儀の悪い一団は避ける。
飲み屋もしかり。
素行が悪そうなグループの近くには座らない。
会社においてもしかり。
自分の企画に反対意見が出そうだと思ったら、企画を提出するタイミングを再検討する。
企画を通すことが目的であって、反対意見と衝突することではないからだ。
丁々発止の意見を戦わせ、よしんばそれに勝ったところで、相手に怨(うら)みを残すのは、長い目で見ればマイナスに作用することが多いのである。
『降りかかる火の粉は避けて通れ、払えば袖に火がつく』
これが武道精神なのである。
『武道に学ぶ「必勝」の実戦心理術』KKベストセラーズ
「百戦百勝は、善の善なる者にあらざるなり。戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」という孫子の言葉がある。
百回戦って百回勝つことは、最上の策とは言えない。
なぜなら、戦えば必ず兵の損傷があるからだ。
最上の策は、戦わずして勝つこと。
武道に限らず、なまじ腕に自信がある人は、自分の得意分野で競ってしまう。
例えば、経営で言うなら、規模の大きさを恃(たの)んで価格競争を仕掛けること。
同じ土俵に乗ったら、みんなが疲弊(ひへい)する。
まともに真正面からぶつからない。
最上の策は戦いをさけ、同じ土俵で戦わないこと。 |
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