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2014.12.9

修行とは無茶ぶり


立川流真打、立川談慶氏の心に響く言葉より…

弟子入りのときに、立川談志師匠に言われた言葉。

「修行とは不合理や矛盾に耐えること。前座の役目は俺を快適にすること」

ここは学校ではありません。

また会社でもありません。

つまり、いままで所属していた社会で培(つちか)ってきた価値観だけでは対応できないのです。

ここで、自分のプライドとの勝負になります。

プライドは実に厄介なものです。

なさすぎは自分が自分でなくなるゆえ、無論困りますが、ありすぎも面倒なもの。

おそらく立川流を自らやめていった人間の大半が「プライドとの兼ね合いで悩んだ結果」だろうと察します。

「なんでそこまで言われなきゃならないのか」「なんでそんなことまでしなきゃならないのか」という葛藤に耐えられなくなって、やめるのでしょう。

古典落語という「ネタバレ」したストーリーは、なぜプロが語ると面白いのでしょうか?

答えは「間(ま)」です。

「間」は早すぎてもいけません。

長すぎても「大間(おおま)」といって好まれません。

ちょうどいいタイミングで処理するからこそ、「いい間だねえ」と評価されるのです。

「呼吸」と言い換えてもいいかもしれません。

まさに修行生活とは「間と呼吸」を求められる期間なのです。

要するに「おい、アレ出せ!」と言われたら、「はい!」と即、対応する力です。

遅いのは無論怒られますが、「アレ」という前にその品物を出すと、今度は「なぜ、お前のペースに俺が合わせなきゃならないんだ!?」と、これまた怒りの対象になるのですから、やはり「間」なのです。

さあ、ここで、「修行生活」を「無茶ぶり」と置き換えてみましょう。

前座の後半期、師匠から「いま飲んでるから机の上の原稿を持って来てくれ」とだけ留守番電話に入っていたことがありました。

この短いメッセージを深く吟味し、直前まで師匠と一緒にいた弟弟子に電話し、師匠が懇意の歯医者さんに行ったことを確認。

そしてその歯医者さんに電話をして、助手の方から「歯医者さん行きつけの店」を数店、聞き出し、さらには師匠が好みそうな雰囲気のお店…となると必然的に対象は絞られ、限定されてきます。

そこで、これはというお店に電話をし、案の定、師匠が飲んでいることを確認しておいて、お店の戸を開けて入っていきます。

「よくわかったなあ」と言ったのは、歯医者さんのほうでした。

師匠は、「こいつは、やっとこういう対応が取れるようになったんだよ、なあ?」と当然の顔。

「俺のところにいれば、どんなやつでも使えるようになるんだ」と、自慢げにその歯医者さんに語りました。

「修行」とは「無茶ぶり」、そして「無茶ぶり」とは「修行」なのです。

自分という小さいワクをぶち壊して、さらなるバージョンアップを図るには、「無茶ぶり」しかないのかもしれません。

このバージョンアップによって「対応力」が磨かれるのです。

そう、「無茶ぶり」は可能性のある者に向けられた試練なのです。

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精神科医の松崎一葉氏は、宇宙飛行士になれる条件として、不合理さや理不尽さに耐えられること、と語る。

宇宙飛行士は、宇宙船という限られた空間の中で、仲間同士の争いを避けたり、想定外の事故など、不合理さや理不尽さというストレスと向き合わなければならない。

それを乗り越えるのに最も必要なことは、情緒的余裕があることだという。

数々の理不尽な「無茶ぶり」に耐えると、自分の情緒の枠(わく)が広がり、そこに余裕が出てくる。

落語は「間と呼吸」という情緒をとても大事にする芸。

どんな無茶ぶりも、ニコッと笑って平然と乗り越えられる人には限りない魅力がある。


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