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2014.8.21

美しき人になりたく候


愛知専門尼僧堂堂長、青山俊董尼の心に響く言葉より…

顔というものは、とても不思議なものです。

顔の造作もよく整い、本人も自分の器量に自信があり、ふだんのお手入れも怠りなくしている。

それでいて少しくも美しくなく、むしろ嫌悪感さえ与えるという顔もあります。

逆に顔だちはそれほどの美人ではなく、ときには化粧では隠しきれないほどの痣(あざ)があるけれど、何かひかれる美しさを、思わず振り返りたくなるような明るさや温かさをたたえた顔があります。

実は、そういう素敵な顔と出会うたびに思い出す、ホイットマン(アメリカの詩人)の詩があるのです。


女(おみな)あり

二人ゆく

若き うるわし

老いたるは

なほ うるわし


白髪がなくて美しいというわけではない。

シワがなくて美しいというのでもない。

白髪の一本一本に、シワのひと筋ひと筋に、40年50年の歳月を生きてきたその人の生きざまが輝いて、美しいのです。


明治の女流歌人・与謝野晶子(よさのあきこ)の生まれつきの器量は、あまり恵まれていなかったそうです。

それが晩年の晶子はほれぼれするほどに美しかったと言います。

堺の旧家のいとはん(お嬢さま)として育った晶子が、与謝野鉄幹を慕って家出、たくさんの子供をかかえ、貧困にあえぎながら夫の鉄幹を励まし歌や文学の道を生き抜いた厳しい生きざまが、晩年の晶子を、いぶし銀のような美しさに磨きあげたのでしょう。

「40歳になったら、自分の顔に責任を持て」といったのはアメリカ大統領のリンカーンだったでしょうか。

私も人格は行為の集積であり、自らの毎日の行為によって彫り上げていくもののような気がします。

親からいただいた顔や体を素材として、物心つくその日から何を思い、何を語り、何をしたか、言葉には表さない心の深層に秘めたわずかな思いまでも、そして誰も見ていないところでのささやかな行為までもが、一分(いちぶ)のごまかしもない彫刻刀となって私やあなたの顔や姿を彫り、人格をつくりあげ、衣装や化粧ではごまかしきれない美醜の差となって顔にあらわれるのが、40歳代ではないでしょうか。

故・会津八一(あいづやいち・歌人)先生は、さる知人にこんな手紙を書き送っておられます。

「ご同様(ごどうよう)、気をつけて、落ちつきて、美しき人になりたく候(そうろう)」

私自身も、美しい人になりたいと、心から思います。

“青山俊董・愛知専門尼僧堂堂長”

『幸せは急がないで』知恵の森文庫


「20歳の顔は自然の贈り物。50歳の顔はあなたの功績」(ココ・シャネル)

男性も女性も、その人の長年の生きざまが顔にでる。

卑(いや)しい言動や、卑怯(ひきょう)なことばかりしてきた人は、卑しい顔になる。

自分のことより先に、人の喜びや人の幸せを考えて生きてきた人は、美しい人になる。

何の努力も苦労もせず、もって生まれたスタイルや美貌だけをたよりに生きてきた人は、晩年になって深みのないのっぺらぼうの味のない顔になる。

「物心つくその日から何を思い、何を語り、何をしたか」

美しき人になりたい。


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