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2014.6.3

ずっと必要とされる人


福井福太郎氏の心に響く言葉より…

「どうして100歳になっても働くんですか?」とよく聞かれます。

団塊世代でもう現役を引退した僕の息子ですら、あきれたり感心したりするくらいだから、みなさんがそう思うのも仕方がないことだよね。

でも、僕としては、普通だと思うことをただ続けてきただけなんだよ。

もちろん、働きたくても辞めざるをえない人は多いと思う。

会社勤めなら、定年で退職金をもらって引退してしまうのが普通だから、働いている高齢者が少ないのはそもそもしょうがないことだよ。

僕のほうが珍しいんだろうね。

ただ僕は、元気な間は、人間はずっと働かなきゃいけないと思ってるんです。

だって、動物は、死ぬまで自分の力で食料を調達して生きていますよね。

人間も動物の一種なんだから、生きるために、死ぬまで働かなきゃいけないものなんじゃないかな。

そもそも、働くという字は、「人」が「動く」と書くでしょう。

太古の原始人というのは、誰もが自分で動いて、生きるために食べ物を採ったんだろうね。

それは、今の人間にもずっと備わっている本能なんじゃないかな。

僕と違って、「生活に困らないなら働きたくなんかない」と言う人もいるよね。

それは引退して、家でゆっくりしていたいということでしょうね。

もちろん、誰にも迷惑をかけず、楽しく生きていけるなら、それも良いことだと思う。

ただ、月給をもらうかどうかは別にして、元気でいる間は何もやらずにじっとしていても仕方がないんじゃないかと僕は思ってしまう。

僕の場合は全然動かないでいるほうが疲れちゃうんだ。

逆に100歳まで会社で働いてきて、もう疲れたなんて思ったことはないくらいだよ。

僕自身は、49歳から始まったサラリーマン人生で、辞めたくなるほど嫌なことはありませんでした。

何しろ、あまりえらくなろうなんて思ってなかったから、気楽なものでした。

人間は、自分の置かれた運命に従って、そこで頑張っていくより仕方がないものなのです。

与えられた運命のもとで、とにかく自分が精一杯できる努力をしていくしかない。

そして、どんなに努力してもうまくいかないからって、すぐにイライラしてはいけないんですよ。

僕は何歳になっても生きている間は働いたほうがいいと思うけれど、お給料をもらって働くことだけがいいと思っているわけではないんだ。

だってね、そもそも全員が死ぬまでお給料をもらえるような、そういう社会にはなっていないんですからね。

人間、自分勝手はいけないよ。

人のために何ができるかを考えて生きなきゃ、だめなんじゃないかな。

僕は、そうした「利他」の考え方を人生の柱にして生きてきたんだ。

誰かに教えられたわけではないけれど、小さな頃から周りの人たちが、いつも助け合って生きていたから、自然に「利他の心が、生きていくうえで大切なんだ」と思うようになったんじゃないかな。

特に大きな影響を受けたのは、母からなのかもしれないなあ。

母は、とにかくいつも、人のことをさりげなく見守っているような人だった。

そして、自分が何かをもらっても、貧しくて困っている人にあげてしまうような人だったんだ。

『100歳、ずっと必要とされる人』日経BP社


福井福太郎さんは、100歳を過ぎた今も、片道1時間かけて通勤し、働き続ける。

慶應義塾大学経済学部の助手、軍人、毛皮の商売と紆余曲折を経たものの、49歳から勤めた望月証券(合併を繰り返し、現在はみずほ証券に吸収合併)では、社長だった親友からその明晰な頭脳を買われて入社したので取締役に就いた。

お金に困っているわけではなく、地位や名誉のために働いているわけでもない。

一線を退いた70歳からの30年以上は、親友の身内がオーナーである、社員3人程度の宝くじ販売委託会社「東京宝商会」に顧問として働いている。

仕事内容は、宝くじの仕分けや枚数の勘定、売上管理など、地味な仕事であることは間違いない。

「会社でそれなりに功成り遂げた人」であれば、正直、あまり面白いとは思えなそうな仕事。

過去の経歴が立派でも、福太郎さんは決してえらぶらず、ほかの社員の方たちと同じように、まじめに仕事をされてきた。

(共著者の日経ビジネス記者、広野彩子氏・同書より抜粋)

かなり前のことになるが、校長先生が定年退職してタクシーの運転手になった、と新聞で話題になったことがある。

福太郎さんもそうだが、前職での地位や肩書、あるいは金銭を気にせず、目の前の与えられた仕事の中に面白味を感じ、今仕事ができるだけでありがたいと思っている人は、いくつになっても働くことができる。

前職の名刺や肩書を捨てられない人は、「利他」とは逆の、自分のことを先に考える「利己」の人。

人から必要とされる人は、「利他の心」を持った人。

いくつになっても、ずっと必要とされる人でありたい。


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