2014.3.26 |
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名スピーチは |
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伊集院静氏の心に響く言葉より…
いやはや驚いたと言うが、ただただ感心させられた。
松井秀喜さんの引退セレモニーの挨拶である。
あらたまった席での挨拶や、人前で話をすることが私が不得意なせいもあるが、あれだけのスピーチをメモの用意せずに話せる日本人がいったい何人いるだろうか。
5万人の観衆の前で、己が伝えなければならぬ話を順序立てて、しかもひとつひとつの語尾をしっかりと発音し、次に語るべきことを話していく。
しかも全体を通して話すべき内容の本筋がいささかもぶれることがなかった。
日本プロ野球の引退スピーチの代表は、長嶋茂雄氏の後楽園球場でのスピーチである。
“私は今日引退しますが、わが巨人軍は永久に不滅です”。
イイスピーチダナー。
このスピーチも、あらかじめ用意した分を読んでいたら、ああはならなかったはずだ。
聞く人に何かを与える(感動と言ってもいいが)スピーチは、名文を読むことではなく、伝えようとする話の軸をきちんと踏まえ、あとは自分の言葉で、いかに誠実、丁寧に語っていくしかないのではないだろうか。
…あっ、そうか。それでわかった。
何がですか?私が話が下手な理由である。
まず軸というものがなく、誠実、丁寧とはほど遠い所で生きているからである。
挨拶の肝心を少し話す。
挨拶というものはまず短いことが肝心である。
光陰矢の如し、長い話を聞いている余裕はないのである。
長い挨拶は、話をまとめて来ないでよくまあしゃあしゃあと話をしているものだ、少し頭が鈍いんではないか、と思われるのが(聞く人は口にしないが)普通である。
次によく聞き取れる声(または発声)でなくてはいけない。
志ん生と小林秀雄(文芸評論家)の声がそうである。
そうして最後に、これが大切なことだがユーモアがなくてはいけない。
要は話の順列と言葉の選択にセンスがあること。
『許す力』講談社
「ジャイアンツファンの皆さま、お久しぶりです。
2002年、ジャイアンツが日本一を勝ち取った直後、ジャイアンツに、そしてファンの皆さまにお別れをお伝えしなければならなかった時、もう二度とここに戻ることは許されないと思っていました。
しかし、今日、東京ドームのグラウンドに立たせていただいていることに、いま感激で胸がいっぱいです。
1992年のドラフト会議で私をジャイアンツに導いてくださったのは長嶋監督でした。
王さんのように1シーズンで55本打てるようなバッターを目指せと背番号『55』をいただきました。
ジャイアンツの4番を任せていただけるようになり、誇りと責任をもって毎日プレーしました。
ただ、その過程にはいつも長嶋監督の指導がありました。
毎日、毎日、二人きりで練習に付き合っていただき、ジャイアンツの4番バッターに必要な心と技術を教えていただきました。
また、その日々がその後の10年間、アメリカでプレーした私を大きく支えてくれました。そのご恩は生涯忘れることはありません…後略」
(松井秀喜の引退セレモニーでのスピーチ、2013年5月5日)
引退セレモニーにおいての名スピーチは、自分のことより、お世話になった方や所属チームや会社への敬意と感謝の気持ちを伝えている。
そして、カッコよく話してやろうなどと、決して背伸びせず、謙虚で、誠実な姿勢が人の胸を打つ。
「むずかしいことを やさしく」(井上ひさし)
名スピーチは、自分の言葉で、簡潔に短く、聞き取れる声、そしてユーモアを持って…
スピーチでは、背伸びせず、自分の言葉で、気持ちを伝えたい。 |
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