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2014.2.4

ジョブズの料理人

ジョブズの料理人、外村仁氏の心に響く言葉より…

2011年10月初め、米西海岸のシリコンバレーで営んできた和食店「桂月」は閉店を間近に控えていた。

アップルの創業者、スティーブ・ジョブズさんは桂月の常連客だった。

寿司屋というのは不思議な飲食店だ。

ふつう、料理人は裏方に徹しお客様の目に触れる機会は少ないが、板前はカウンターを挟んでお客様と至近距離で向き合う。

板場から「定点観測」をしているといえるかもしれない。

好きな言葉に「一人一切人(いちにんいっさいにん)」というものがある。

20年ほど前、ハワイの天台宗別院を訪れた際、荒了寛和尚にいただいたものだ。

和尚は「お客様一人ひとりを大事にしなくてはなりません。

一人のお客さまの後ろには何千、何万という人とのつながりがあり、それがいつの日か形になって目の前に現れてくるのです」

と話してくださった。

ジョブズさんはシリコンバレーの名門、スタンフォード大学の卒業式で「点と点をつなぐ」という話をしたことがある。

大学を中退した後に潜り込んだカリグラフィー(文字を美しく見せる手法)のクラスでの経験がパソコン「マッキントッシュ」の開発に役立ったと説明し、

「今やっていることがいずれ人生のどこかでつながって実を結ぶ。将来を見据えて点と点を結びつけることはできないが、後からつなぎ合わせることは可能だ」

と語った。

桂月では、スティーブに限らず、多くのエグゼクティブをお迎えしたのだが、その中でもスティーブの印象が強い。

どうしてかと考えてみると、ひとつ思いあたるのは、スティーブは毎回、自分で電話をかけて持ち帰り用の寿司を注文し、破れたジーンズ姿で自ら受け取りにやってきていたということだ。

来店する際も自分で予約の電話をかけ、あるときから電子メールが多くなったが、やはりそれも自ら送っていた。

多忙なエグゼクティブには当然、会社に秘書がおり、日常生活で様々な仕事を任せる担当者を個人的に雇っているケースも多い。

一方、スティーブは基本的に、すべてを自分でやる珍しいエグゼクティブだったのだ。

こんなCEOはほかにはなかなか見あたらなかった。

こうした姿勢はおそらく、仕事でも同じだったのだろう。

今になって振り返ってみると、アップルが大成功を収めた大きな理由はこのあたりにあるのかもしれない。

『ジョブズの料理人』日経BP社


外村仁氏は、そろそろ60歳に差し掛かりつつあった年齢などを考え、26年に及ぶ米国での和食店の経営を終わりにした。

「一人一切人」とは、比叡山の僧侶・良忍師の言葉だ。

一人は単独で存在しているのではなく、まわりの人や世界と密接につながっている、ということ。

松下幸之助翁は、自社の真々庵の座敷にゲストを招いたとき、並べられている座布団を見て、「座布団、曲がっとるで。まっすぐにせいや」と言ったという。

人は、些細なことにその人の性格や人間性があらわれる。

人に任せ、口を出さないことも大事だが、同時に、小さなことをおろそかにしないことも必要だ。

目の前の一事を大事にする人でありたい。



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