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2014.1.23

何事も遅すぎることはない

阿木燿子氏の心に響く言葉より…

私がフラメンコを習い始めたのは44歳。

何事にものめり込みやすい性格ゆえか、その時から私の生活は、フラメンコ中心になった。

多い時で週に10回、レッスンに通い詰め、仕事と家事はその合間に片付けるという感じだった。

主人は最初から協力的で、そのために食事の用意が多少疎(おろそ)かになっても、大目に見てくれた。

それどころか発表会が近づくと、家の近くのスタジオで自主トレをしている私の様子をビデオに撮るべく顔を覗(のぞ)かせ、いろいろアドバイスしてくれた。

レッスンに行き詰った時の、愚痴の聞き役も彼だ。

どんな時も彼は私の泣き言に根気よく付き合ってくれた。

私の言うことは大体決まっている。

自分覚えの悪さや、出来なさについてのぼやきがほとんどだ。

また後から入ってきた若い人に追い抜かれたと悔しがり、そのことを主人にぶつける。

私が3ヵ月かかってようやく覚えたことも若い人は軽く1,2回のレッスンでクリアしてしまう。

そもそもフラメンコはリズム感が大きくものを言う。

ただ単に振りを覚えただけではフラメンコにならない。

その意味では中高年は不利だ。

若い人のように、すぐリズムには乗れない。

その夜、私は例によって彼に愚痴を零(こぼ)していた。

どうしても上手くいかないステップがあり、自分の身体能力の低さを嘆いたのだ。

ああ、若い頃からやっていれば良かったな。

そしたら、こんなに苦労しないのにと。

その時、彼はこう言ってくれた。

「そんなことないよ。

若い時にダンスを習う女性は結構いるけど、案外続かないものだよ。

一度習うと気が済んじゃうのか、その人の人生に何の影響も与えないまま、遠のいてしまうことの方が多い。

でも、あなたはこの年齢から始めたから、一生の趣味にできるでしょう、何事も遅すぎることはないさ」

この言葉にどれほど励まされたことか。

本当にそうだと思った。

そう、遅すぎることはないのだ。

いつでもその人にとって、ジャストタイミングで物事は起こる。

そう信じると、また新たな発見がある。

残念ながら、レッスンのし過ぎで膝を痛め、今は踊れないが、転んでもただでは起きない私としては、フラメンコを習っていた経験を「フラメンコ曽根崎心中」という舞台をプロデュースすることで結実させた。

主人のあの一言は、今でも私の勇気の源になっている。

『忘れられない、あのひと言』岩波書店


阿木燿子(あきようこ)さんの夫は、ミュージシャンであり俳優の宇崎竜童氏。

宇崎氏が作曲し、阿木さんが作詞する、というコンビで、多くのヒット曲を世に出した。

特に、山口百恵さんのヒット曲の大半がこのコンビによるもの。

「何事も始めるのに遅すぎることはない」とは、「思い立ったが吉日」、ということであり、「人生は今日が始まり」ということでもある。

始めようかどうしようかと、考えているうちにどんどん時は過ぎ、結局は何もやらなかった、という例は多い。

死ぬ間際に一番後悔することは、「やりたかったことをやらなかったこと」、だという。

新たなチャレンジをする人を、温かく応援する人でありたい。



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