2013.11.11 |
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一流の職人とは
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家具職人・秋山木工代表、秋山利輝氏の心に響く言葉より…
技術は、繰り返し練習すれば、誰でも習得できます。
しかし、心はそうはいきません。
私が時代遅れのような徒弟制度にこだわり続けている理由は、ここにあります。
集団生活を通してしか「思いやりの心」「人に気遣いができる心」「感謝できる心」が育たない、そう思っています。
一番大事なのは「親孝行」です。
「親孝行」ができない人は、職人にはなれません。
日本では昭和の初め頃まで、大家族が普通でした。
祖父、祖母が一緒に暮らすのも当たり前。
兄弟も多く、一つ屋根の下で10人以上が生活することも珍しくありませんでした。
目上の人を敬い、ルールを守り、兄弟姉妹の面倒を見るのは当たり前。
和を乱さない、困ったときは、お互いに助け合う…。
そういうしつけが家庭で自然とできていました。
人に気を使わない限り、大人数で生活することなんてできません。
礼儀作法を教えるのは、おばあちゃんの役割です。
箸の上げ下ろしから挨拶の仕方、口のきき方まで、昔は小さな子どもでも人前に出して恥ずかしくない立ち居振る舞いを身に付けていたものです。
ところが戦後の高度成長を経て、日本では核家族化が進んでいきました。
子どもも減った現代の家庭では、プライバシーが守られるメリットはありますが、親も十分なしつけを受けていないわけですから、当然、自分の子どもに十分なしつけができるわけがありません。
また、夫婦共働きも多く、子どもが好き勝手に振る舞っても注意する人がいません。
集団生活を経験したことのない人は気遣いができず、人のために働けません。
それで、いざ大人になって、世の中に出て初めて、困ったことになる人が続出しているのだと思うのです。
私は、中学校を出てから、当時はもうなくなりかけていた徒弟制度を偶然にも経験しました。
その5年間の集団生活で、家具を作る技術だけでなく、職人としての立ち居振る舞いや作法を教わりました。
今の自分があるのは、間違いなく、徒弟制度のおかげです。
プロの技術を自分のものにするのは容易ではありません。
しかし、住み込みで24時間、寝食を共にし、一挙手一投足を見逃さないようにと夢中でついていくうちに、吸い取り紙のように技術を吸収し、腕を上げていくことができました。
厳しい親方でしたが、教えていただけることをありがたいと思いました。
その心から感謝が生まれ、人間性を磨いていただいたと思います。
ここに至るまでの道をつくってくれた両親と、周りの方々には感謝するしかありません。
だから、私は今を生きる若者たちにもこのことを教えたいのです。
一流の職人になるには、自分のちっぽけなプライドは置いておいて、まず、親方の言っていることを丸飲みする素直さが必要です。
そうでなければ伸びません。
そして、技術はもちろん、人間的にも成長し、感謝の心を身に付けなければいけません。
素直さと感謝がなければ、人は成長できません。
弟子たちには、「親孝行をしたい、親を喜ばせたいと思わなければ一流の職人にはなれないよ」と言っています。
私が育てたいのは、「できる職人」ではなく、「できた職人」です。
「できた職人」とは、常にお客さまを喜ばせたいと思う心を持った人、不測の事態が起こっても、堂々と自信を持ってその場を乗り切れる判断力を持った人。
お客さまとスムーズに話せるコミュニケーション力を備えた人。
家具や材質について、どんなお客さまともしっかりお話ができる人のことです。
心が一流なら、技術も必ず一流になります。
『一流を育てる 秋山木工の「職人心得」』現代書林
秋山木工は、1971年に、代表の秋山利輝氏が創業。
最初は3人だったスタッフも、現在では総勢37人の規模だという。
見習いの若者を「丁稚(でっち)」と呼ぶ、独自の「職人研修制度」は寮での集団生活が基本。
最近では、テレビでたびたび取り上げられる影響から、ここ10年ぐらいは採用枠の10倍以上の応募者が来るようになったが、それ以前は高校の就職担当の先生に会ってもらえないときもあったという。
どんなに、知識や技術があろうとも、それに心がともなっていなければ、一流になることはおろか、必ずどこかで行き詰り、駄目になる。
心とは、「思い遣り」、「気遣い」、そして「感謝」の気持ち。
その根底には、「人を喜ばせる」という思いがなければならない。
現代は、いい学校やいい会社へ入るため、知識や記憶力という「頭」さえ磨けばよい、と考える人も多い。
しかし、心が磨かれてない人は、ただの頭でっかちの鼻持ちならない人間になるだけだ。
人に好かれ、人の役に立ち、人に喜んでもらう…
気遣いや、感謝の気持のある、素直な人でありたい。 |
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