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2013.9.28

つかずはなれず

美輪明宏氏の心に響く言葉より…

よく「どうして美輪さんはパステルカラーやヒカリ物をいつも身につけていらっしゃるんですか」と訊かれるんですけれど、これは私の生きていくうえでの美意識ととても関わりがあります。

だって紫や金、パステルカラーは、どこかはかなげで情緒があるでしょう。

私自身、フラジャイルな、つまりはかなげな色の持つたたずまいを忘れずに、他人に対してもそういう印象を与える人間でいたいなといつも考えているんです。

今の時代は“一卵性母娘”なんて言葉もあるように、べったりとした原色のような人間関係を好む人がたくさんいます。

でも、それはいかがなものでしょう。

もちろんあまりにも表面的でよそよそしい態度をとっていると、いつまでたっても仲良くなれない。

だけど、深くつきあいすぎると、どうしたって嫌なところが目につきだしてしまう。

だからお互いを尊重し、ほどほどの距離をたもっておくのです。

そうすると、嫌なところは見せなくてすむし、こちらも余計なものを見なくてすむ。

愛さえしっかりあれば、腹六分か七分で付き合う。

友人関係だけじゃない。

恋人同士、親子、きょうだい…どの関係にもこれはいえることです。

いっしょにすごす時間が長ければ長いほど、そうあるべきです。

なのに、一定の距離感を「水くさい」なんていって、腹一杯付き合って土足で人の心にドタドタ踏みこむような真似をする人が多すぎる。

だから、私は嫁姑や親子などといったベタついた人間関係を描いたホームドラマが好きではありません。

もの知らずで馬鹿な評論家はそういうドラマを評して「日本の家族の原点、ここにあり」なんていうけれども、私は反対です。

そんなことをいうから、互いに馴れ合いが生じ、それこそ日本人の原点であるところの“親しき仲にも礼儀あり”の日本の武士道から守られていた長所がなくなり、不作法になり、罵(ののし)りあい、殺し合うような家庭内暴力も生じるのです。

昔は親子の間にもきちんとした距離がありました。

躾の行き届いた良識ある家庭では親は子供を“さん”づけで呼んでいたし、子供も親に対して敬語で喋っていました。

試しに昔の日本映画を見てごらんなさい。

それはけっしてよそよそしいものではなく、じつに穏やかなものです。

そういうわけで私は人とのかかわりあいは、腹八分でもじゅうぶんすぎるくらいだと思っています。

できるならば、人のつきあいは、つかずはなれずの腹六分か七分ぐらいにとどめておきたい。

それこそが人間関係を円滑に保つうえでの生活の智慧だと思います。

『美輪明宏 天声美語』講談社


「荘子」の「山木篇」に次のような言葉がある。

「君子の交わりは淡きこと水の如く、小人の交わりは甘きこと醴(れい)の如し」

素晴らしい人物の交際は、あたかも水のように淡々としてしている。

しかし、つまらぬ小人物の交際は、甘酒のようにベタベタしている。

醴(れい)とは、甘酒のこと。

相手の心に土足で踏み込むようなベタベタした付き合いは、「子供」の付き合い。

真に成熟した「大人」は、淡々とした交際、すなわち「淡交」が身についている。

人とのつきあいは、つかずはなれずの「淡交」でありたい。



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