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2013.9.1

書き写したメール

ゆう けい さんの心に響く言葉より…

早く帰りたい。

今から7年前。

街を歩く人たちが少し浮き足立って見え、イルミネーションが少しだけ寒さを忘れさせてくれる季節。

毎日、毎日、早く帰りたかった。

でも、仕事が終わらない…。

ほとんど毎日残業で、深夜0時をまわることもあった。

そんな中、唯一励みになったのが、同棲していた彼女からのメール。

「遅くまでご苦労様。身体に気をつけてね」

「今日も一人で残業かな?寂しくなったらいつでも電話してね」

「こんなに遅くまで凄いよ。私も起きて待っているね」

彼女からのメールのおかげで何とかその日その日を乗り越えることができた。

彼女は一度も文句を言わなかった。

何かあってもすぐ謝るから、ケンカにもならなかった。

そんな彼女が大好きだった。

年が明け、2月のはじめ、突然「別れたい」と言われ、何が何だかわからないまま別れることになった。

すべての荷物を運び出し、部屋を出て行く彼女を僕は見送ることができなかった。

彼女のすすり泣く声と震える声で言った「じゃあね」が悲しすぎて下を向いたまま手を振って別れた。

その年の冬は特に寒かった。

春が来て、夏が過ぎ、秋を迎えた頃、連絡が来た。

彼女が亡くなったと、彼女のお兄さんが教えてくれた。

信じられなかった。

彼女は病気と闘っていたのだという。

僕は電池が切れたように、その場に崩れ落ちた。

「なんでもっと早く帰ってあげなかったんだよ!」

「なんで別れるときに、しっかり理由を聞かなかったんだよ!」

「なんで内緒にされるような付き合いをしちゃったんだよ!」

自分を責めている僕を見て、お兄さんが渡してくれたのは少しボロくなったノート。

中は、僕が送ったメールの書き写しだった。

亡くなる前、力が入らない手で一生懸命書いたのだろう。

細く、きれいとは言えない字で書かれていた。

12/2 

遅くなってごめんね。今日こそは早く帰ろうと頑張っていたんだけど、結局はこの時間だよ(汗) 

もっと仕事ができる人間になるぞ!

12/5

約束していた映画、また今度行こうね。

今日も遅くなちゃってごめんなさい。

埋め合わせは必ずします。

12/9

イルミネーションの時間、終わっちゃったね(汗)

今年中に必ず連れて行くから!

ごめんね。

12/10



最後のページにこう書かれていた。

「彼のおかげで、私は幸せに人生を終えることができます。

彼のおかげで、初めて人にやさしく生きることができました。

彼が必ず謝ってくれたから、私も素直に謝れました。

仕事をしていても、いつも気にかけてくれていたから寂しくはありませんでした。

ここにある彼からのメールは、私の宝物。

どこにも行けなかったけど、幸せでした。

神様、生まれ変わっても彼と出会わせてください」

読み終わり、声を出して泣き崩れた。

さまざまな思い出が頭に浮かんだけれど、すべて、彼女は笑顔だった。

『魂が震える話』エイチエス株式会社


山本常朝の『葉隠』にこんな一文がある。

「恋の至極は忍恋(しのぶこい)と見立て候。

逢いてからは恋のたけ低し、一生忍んで思い死することこそ恋の本意なれ」

葉隠といえば、「武士道というは死ぬ事と見付たり」が有名だが、恋についても書いてある。

忍恋とは、永遠の片思いのことだ。

つまり、「相手に負担をかけない」、「相手に迷惑をかけない」ということも武士道である、と言う。

相手に負担をかけないように、自分だけがただ耐える…

日本人として、心の琴線にふれる価値観の一つだ。

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私の大好きな、けい&ゆうさんの初めての本がとうとうできました!

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