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2013.6.2

勇気を失ったら

津本陽氏の心に響く言葉より…

日本人の道徳が地に堕(お)ちた時期は過去に幾度もあった。

一度も戦乱がおこらなかった徳川幕府治下の260年余のあいだに、元禄、享保、文化、文政の人心が頽廃(たいはい)した時代があったが、欧米勢力により開港すると、たちまち倒幕運動がおこり、あたらしい国家体制をつくりあげる勢力があらわれた。

はじめて眼にする西欧文明を消化し、それをわがものとして、さらに頭角をのばしてゆく旺盛なエネルギーは、時代を経ても日本人の体内に組みこまれている。

今後も時に及んで活動してゆくにちがいない。

国際情勢の変転は激しさを増してゆくばかりであるが、われわれが祖先からうけついだ武士道の気概は、難局にのぞめばかならず燃えあがるのである。

武士道の気概とは、命がけの真剣勝負にのぞんで死を恐れない気魄(きはく)、勇気と言い換えてよい。

柳生石舟斎の『截相(せつそう)口伝書』に剣術の秘伝を説いた「勇のこと」という一節がある。

「キリムスブ カタナノシタコソ ジゴクナレ ミヲステテコソ ウカブセモアレ」

剣術のすべての根源は、ただ勇気であると説いているのである。

勇気がなければ、技術がいくらすぐれていても命がけの勝負では勝てないということである。

日本人の特徴のひとつに、国家組織ができあがると、穏和に体制に従い、激しい動きをひそめ冬眠状態になる傾向がある。

幕末に勇気ある志士たちによって切り拓(ひら)かれた新しい社会も、明治、大正、昭和を経て、官僚制という牢固(ろうこ)とした支配体制が確立されるに及び、当初の理想を失い、支配体制の維持と保身にのみ汲々とする勇気を持たぬ指導者を生むに至った。

だが動乱期になると活発な国民運動が湧(わ)きおこってくる事実は、正史のうえにしるされている。

『武士道 いかに生き、いかに死ぬか』三笠書房


行徳哲男師はこう語る。

「金や財産、名誉や地位を失っても、ほんの一部を失ったにすぎない。

しかし、勇気を失ったらすべてを失う。

勇気は頭からは生まれない。

勇気を生むのはただ行動のみ。

行動が勇気を起爆させるのである」

“感奮語録”(致知出版)より


「身を捨ててこそ浮かぶ瀬(せ)もあり」

逃げれば逃げるほど危険度は増すが、逆に渦中に飛び込めば危機を脱する可能性は高まる。

それが、自らをさらけ出し、身を投げ出す、という行動。

すなわち、「死中活(かつ)あり」だ。

これは剣術や武士道のことだけでなく、人生においての問題対処の仕方も同じこと。

勇気を失ったらすべてを失うことになる。



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