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2013.3.12

回り道こそが成功への近道

ジョン・ケイ氏の心に響く言葉より…

ハンガリー出身の心理学者、ミハイ・チクセントミハイは、困難に立ち向かうことで得られる感覚を「フロー」という言葉で表現した。

彼の説明によれば、自分の限界と思われるほどの困難を克服するために、そこに全力を注ぐ場合に起きる「努力していることさえ感じない努力」が「フロー」だという。

「フロー」は、日常の仕事の中でも経験が可能だ。

たとえば、私自身が「フロー」状態でいるのは、講義やセミナーが順調に進んでいるときである。

次の言葉を逃がすまいとする学生の沈黙が感じられるとき、あるいは言葉が溢れ出るように執筆が進んでいるときに、それが感じられる。

仕事に限らず、「フロー」はサーフィン、野球といったスポーツの世界にも存在するし、作曲、彫刻といった創作活動でも同様のことが起きるはずだ。

しかし、どの場合も行動の目的はその行為自体であり、決して幸福になることではない。

チクセントミハイが、学生に個々の精神状態をレポートするよう依頼したところ、学生たちは「フロー」とされる状態より、友だちと遊ぶ時間に幸福を感じると答えた。

「フロー」状態にいる人は自分のしていることに夢中で、幸福を感じる暇がないということであろう。

ただし、この「フロー」体験は長い目で見ると当人の幸福感に寄与している。

「なぜエベレストを目指すのか?」という問いに対して、「そこに山があるから」という有名な言葉で答えたジョージ・マロリーがその死まで山に上り続けたことも、ここに起因すると考えれる。

チクセントミハイによれば、「フロー」の体験者の多くは、人生を振り返ったときに、その「フロー」状態こそ人生最高の瞬間であったと考えている。

一見、幸福とは無関係なやり方、つまり回り道的に幸福を求めたほうが、実際には幸福になれるのではないだろうか。

われわれは、不幸だと感じるような経験の中で幸福感を味わい、しかも、その幸福感は直接的に求めた幸福より大きいのだ。

人間は、「どうすれば幸福になれるのか」という問いに対し、明確な答えを持たない。

オムツを換える、泣きわめく子どもに手を焼く。

回り道だが、それでも子どもの面倒をみることは幸福につながる。

幸福とは、そこにあることに気づく類のものであり、どこかへ探しに行くものではない。

アメリカ大陸を横断する最短ルートは、太平洋に出るルートを探した人ではなく、財宝を求めた人が発見した。

幸福も新しい領土の発見と同様、回り道をたどることで実現できるものである。

われわれを取り巻く環境は単純とは言えず、むしろ非常に複雑であり、われわれの環境に関する知識は断片的で不完全と言わざるを得ない。

したがって、われわれは目標に向って一直線に進むことは不可能で、現実としては回り道をたどってそこに向う以外に方法はない。

『想定外 なぜ物事は思わぬところでうまくいくのか?』ディスカヴァー


ジョン・ケイ氏は、同書の中で、

「なぜ利益を追求しない会社のほうが利益をあげるのか?」

「なぜお金を追求しない人のほうがお金持ちになるのか?」

「なぜ幸福を追求しない人のほうが幸福になるのか」

という、意思決定のパラドックスについて述べている。

そして、「どこかを目指すなら、反対方向に進むこともひとつの選択肢だ」、とも言う。

儲けたい儲けたい、とずっと毎日念じているような人は、儲けることは難しい。

儲けられる人の側に立てばわかるが、それは損をするということであり、そんなガツガツした人は嫌われる。

人を喜ばせたい、もっと皆が驚くものや面白いものを作りたいと思っている人の方が、結果として後から利益はついてくる。

「フロー」とは、無我夢中、我武者羅(がむしゃら)に、好きなことをやり、人を喜ばすことをやること。

「フロー」は、損得ではなく、「ただひたすら」。

「回り道こそが成功への近道」

ただひたすらに、損得を考えず、人を喜ばす人でありたい。



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