2013.1.28 |
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大人になるというのは
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茨木のり子氏の心に響く言葉より…
【汲む】
―Y・Yに―
大人になるというのは
すれっからしになることだと
思い込んでいた少女の頃
立居振舞の美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました
初々(ういうい)しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕(お)ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました
私はどきんとし
そして深く悟りました
大人になってもどぎまぎしたっていいんだな
ぎこちない挨拶 醜く赤くなる
失語症 なめらかでないしぐさ
子どもの悪態にさえ傷ついてしまう
頼りない生牡蠣のような感受性
それらを鍛える必要は少しもなかったのだな
年老いても咲きたての薔薇 柔らかく
外にむかってひらかれるのこそ難しい
あらゆる仕事
すべてのいい仕事の核には
震える弱いアンテナが隠されている きっと……
わたくしもかつてのあの人と同じぐらいの年になりました
たちかえり
今もときどきその意味を
ひっそり汲(く)むことがあるのです
『自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ』永遠の詩 02(小学館)
「Y・Y」とは、舞台女優の山本安英さんのこと。
新劇の聖女と呼ばれ、「夕鶴」を37年間演じた。
どんなに年齢を重ねようが、「初々しさ」や「驚き」、「感動」や「感激」がある人は魅力的だ。
大人になるというのは、さも何でもわかったような顔をして、落ち着きはらって、大人然としていることではない。
人は、子どもの心を失ったとき、ワクワク、ドキドキという「ときめき」がなくなる。
いつまでたっても初々しさを失わない、しなやかな感性を持っていたい。 |
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