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2013.1.13

わたしの死亡記事


村松友視氏が自分自身で書いた死亡記事の中から…

2022年4月10日、墨田川で作業中だった新木場の職人が、水中を流れる老人男性の死体を発見して引き上げたが、本所警察署の調査によって作家の村松友視さん(82)と判明した。

村松さんはかつて『私、プロレスの味方です』『時代屋の女房』『アブサン物語』などを次々と発表し、“多作派”の作家として知られていた。

しかし、60歳を越えたあたりから不意に作品が途絶え、その後にボケも加わって、家から出かけて何日かたったあとふらりと帰ることをくり返していた。

夫人によれば、何年か前から「俺には外に女がいる」と誕生日のたびに口走るのが習慣となっていたというが、82回目の誕生日を迎えた4月10日、やはり同じセリフを口走って、早朝に三つ揃いにネクタイ姿で吉祥寺の自宅を出ている。

向島「言問団子(ことといだんご)」の従業員によれば、老人が午前6時ごろ姿を見せ「言問団子」を買いたいと言うから、開店にはまだ2時間あると断ると、「墨田土手でしばらく時間をやり過ごして戻って来る」と言って引き返したという。

村松さんは、そのあと墨田川で川面をながめているとき、突然の脳内出血におそわれ、そのまま川に落ちたが、突起物に当たって体に傷がついたり、水中で苦しむこともなく、水面に落下する前にすでに脳内出血により即死していたと思われる。

「体裁を気にする主人らしい死に方」とは夫人の感想。

しかし、本当に女性がいたのか、なぜ三つ揃いにネクタイを締めて隅田川へ行ったのかなど、いくつかの疑問も残された。

長年の友人であるピアニストの山下洋輔氏は、

「虚実に遊ぶのは村松さんの芸風だったが、作品が書けなくなったので、作品を書く代わりに身をもって謎を残したのだろう。

それにしても、彼が筆を断って20年も経ったとは…」

と感無量の面持ちで村松さんの死について語り、

「“外に女がいる”は、村松さんらしい虚勢でしょう」

とつけ加えた。

なお、村松さんは生前、自分の葬儀は盛大にやって欲しいと夫人に伝えていたようだが、そんな余裕はないという理由で、ごく少数の限られた近親者によって、密葬が行なわれる模様で、通夜・葬儀の日程は未定。

『わたしの死亡記事』文春文庫


アルフレッド・ノーベルはノーベル賞を創設した人として有名だが、実はダイナマイトを発明した科学者であり発明家だ。

1888年に兄が亡くなったとき、弟のノーベルと間違えて書かれた死亡記事が出た。

そこには、「一瞬にして多くの人を殺害する方法を発明し、それによって富を築いた死の商人死す」とあった。

それを見て、ノーベルはその後の自分の生き方を改め、ノーベル賞をつくったという。

この文芸春秋社の「わたしの死亡記事」は、各界の著名人に、自分の死亡記事を書いてもらうという前代未聞の企画として始まった。

死を見つめることは、生を鮮明にし、これからいかに生きるかを考えさせてくれる。

自分で書いた死亡記事で、自分を笑いのめすことが出来る人は、洒落(しゃれ)た人だ。

軽妙で洒落た人は、時に、自分をまるで他人事のように、客観的に見ることができる。

自分の死亡記事を書いて、「いかに生きるべきか」を真剣に考えてみることも必要だ。



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