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2012.11.26

人を許すということ


中嶋真澄氏の心に響く言葉より…

写真家のK氏はある写真雑誌の編集者から、その雑誌の特集記事に掲載するための写真を数点貸してほしいと依頼を受けました。

掲載されれば、もちろんK氏の名前も出るし、ギャランティも支払われます。

快くフィルムを預けたK氏のもとに、やがて掲載誌が送られてきたころ、「じつは…」と担当編集者から電話がかかってきました。

「どうお詫びすればよいのかわからないのですが、お預かりした貴重なフィルムを紛失してしまいました」というのです。

編集者は返送用の封筒に入れたフィルムをかばんのなかにしまい、そのかばんごと電車の中に置き忘れたらしいのです。

「なんて無責任なんだ」K氏は激怒し、電話口でひたすら平謝りの担当編集者を責めました。

「預けた写真はもう一度同じものを撮ろうと思っても、二度と取れるものではないんだ。

きみも写真雑誌の編集者なら、それぐらいのことはわかるだろう」、そして追い討ちをかけるように「それ相応の謝罪と賠償をしてもらわなくては困る」と言ったのです。

すると、担当編集者は切り出しました。

「そのことですが、編集長とも相談の結果、こちらの雑誌で連載というかたちで当分の間、先生のお写真を毎回掲載させていただき、そこに上乗せする形で今回の償いをさせていただけないかということなのですが…」

それは必ずしも悪い条件ではなかったのですが、K氏は「そんな口約束が守れるとは思えない。だいたいきみが担当をはずれればそれで終わりだろう。冗談じゃない。きちんと責任をとって、賠償金を支払ってほしいね」

K氏が腹立ちまぎれもあり相当な金額を提示したので、担当編集者は困り果て、「もう一度、編集長に相談します」と言って、打ちひしがれた声音で電話を切りました。

それから、数日後のこと。

K氏のもとに、晴れ晴れとした声で担当編集者から電話がかかってきました。

「フィルム、見つかりました。がばんを届けてくれた人がいたみたいで、駅から電話があって… かなり日にちががっているのに不思議です…」

K氏のもとには無事、フィルムが戻ってきて一件落着。

しかし、K氏が平謝りの担当編集者を責めたてた事実は残り、その後、その雑誌社からの写真掲載の依頼は一切なくなってしまいました。

そして、数年後、K氏はあまり自分の写真が売れなくなり、どこか売り込むところはないかと苦労していたとき、そのときの担当者があの雑誌の編集長になっているのを知ったのでした。

もし、あのとき寛容に編集者を許していたら…

『成功する人はみんなやっているのに誰も気づいていない人間関係99の法則』徳間書店


「後世への最大遺物」(内村鑑三)という本の中に、カーライルの話がある。

カーライルはイギリスを代表する言論人だが、何十年もかけて「フランス革命史」を書き上げた。

たまたまその原稿を見つけた友人が絶賛し、一晩家に借りていった。

しかし次の朝、そんなことを知らない家のお手伝いが、暖炉の火付けに丁度いいと、それを燃やしてしまったのだ。

カーライルはそれを聞き、絶望的になって10日ほどは、何も手につかなかった。

しかし、もう一度思いなおし、自分を鼓舞して再び書き直し、その本を世に出したのだ。

すでに終わってしまったこと、元に戻らないことを、怒ったり、悔やんだり、ネチネチと文句を言っても、何も変わらない。

人の過去のミスを責め立て、それでよくなることなど一つもない。

人のミスを許す人には、限りない魅力がある。



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