2012.11.10 |
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20年ぶりの「ありがとう」
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山根利正さんの、心に響く言葉より…
母は、車椅子での散歩が大好きだった。
知人や、通りすがりの方からも、野の花や励ましの言葉をいただいた。
コースの途中の理髪店の奥様は、母が通る時間を見計らって、いつも労わりの言葉や四季の花をくださった。
下校時には、小学生が寄ってきて「大丈夫ですか」とか「楽しそう」と声をかけた。
「おばあちゃん気をつけてね」
「がんばってね」
と、手を振る。
基地の中の道路で、若い婦人自衛官の隊列に出会った。
母に対面し、一斉に挙手の敬礼で「がんばってください」と声がかかった。
母は感激のあまり、目を潤ませ、何度も、何度も、お辞儀をしていた。
私の胸のうちにも、熱くこみあげるものを感じた。
「ありがとう」と、声が出ている。
びっくりした。
以前、糖尿病の麻痺で、人前で言葉が出なくなっていたのに、20年ぶりの「ありがとう」である。
「声が出たねえ」
と、母と目が合ったとき、
「いっぱい出会ったからね。とても楽しかった」
と、にっこりした。
母がこんなに喜ぶのも、多くの方からいただいた温かい心のお陰だと感謝しております。
“山口県防府市 山根利正(69歳)”
『胸が熱くなるいい話』河出書房新社
アルピニストの野口健さんの産経ニュースの記事に次のようなものがあった。
忘れられない光景がある。
宮城県気仙沼。
日はどっぷりと暮れ、全国から応援に駆けつけた消防車十数台もその日の業務を終え、宿舎に引き揚げようとしていた。そのときである。
道ばたから、小学3年生ぐらいの男の子がパーッと飛び出してきた。
彼はピンと背筋を伸ばし、帰路につく消防車を見送りながら一台一台に「敬礼」をしたのである。
後ろで見ていた僕は涙が出そうになった。
彼には分かっているのである。「(消防士たちが)自分たちを、町を助けに来てくれた人たちなんだ」と…。
「敬礼」とは、敬意を表し、うやまうこと。
一般人なら最敬礼の儀。
頑張っている人たちに、心からの敬意を表したい。 |
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