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2012.10.15

幸福王国ブータンの知恵


齋藤利也・小原美千代氏の心に響く言葉より…

ブータンには「幸せの国」という形容詞がついて、人々の注目を集めています。

先の調査(2005年)で、全国民の97%が幸福だと思っていることがわかったのです。

国の政策で、公の場では民族衣装の着用が義務付けられており、男性はゴという日本の和服に似た着物を着ています。

女性は1枚布を巻きつけるようにまとうキラというものです。

農業以外に主要な産業はなく、人々の暮らしも質素で、いまだに自給自足の生活がほとんどです。

石油や石炭などの地下資源には限りがあります。

一方、樹木は再生可能だし、水は気候が安定していれば雨としてずっと供給されます。

田んぼや畑の作物も、土地という資源を使って人が繰り返し再生できます。

ブータンの人々が争いごともそれほどなく、穏やかに暮らしてきた根底には、仏教の教えがあります。

いま生きているのは一時的なものだし、死ぬときは何も持っては行けない。

あれもこれも欲しいという消費型の経済に染まったら、現状に満足しなくなってしまいます。

「もっと、もっと」とエスカレートするのではなく、「これでじゅうぶん」と思うこと。

人々が“足るを知る”生活ができれば、消費社会のスパイラルに飲み込まれることもないのです。

近代化を急がないというのは、そういうことです。

ブータン研究センター所長のカルマ・ウラさんは、近代化についてこう語ります。

世界は近代化によって経済的に発達しましたが、社会的な関係は悪化し、いまも崩壊しつづけています。

コミュニティはなくなり、家族は円滑な状態ではなくなってしまいました。

さらに、都市部に住む若者たちは、“いい自然”というものをまったく知りません。

たとえば彼らは完璧な暗闇を知りません。

人間が眠るときには完璧な暗闇が必要です。

あるいは耕されていない土地、澄んだ空気も、精神的に発達するためには必要です。

人々がはっきりした考え方をもつには静寂も必要です。

近代化は、こうした神聖な感覚を破壊しているのです。

だからこそ、私たちは注意深く近代化をすすめていかなければならないのです。

ブータンは、そうした近代化のやり方とは違うタイプの方法で進みます。

それがGNH(国民総幸福量)という考え方です。

『幸福王国ブータンの知恵』 光文社知恵の森文庫


日本も近代化の流れに乗って、世界でも有数の便利さを手に入れた。

しかし、その半面、捨ててきたものは多くある。

それは、「恥を知る」、「惻隠(そくいん)の情」、「卑怯(ひきょう)を憎む心」といった、日本古来のよき精神風土の喪失である。

また、核家族化や、少子高齢化、人口減、といった社会現象は、他の多くの先進国でも同様に大きな問題となっている。

近代化と真逆にあるのが、暗闇や、静寂や自然。

完璧な暗闇を知らない者は、真のきらびやかさや、明るさを分からない。

静寂を知らない者は、静かで深い思索を得ることはできない。

近代化と、それにともなう便利さの欲求は、「もっと、もっと」と常にエスカレートする。

「これでじゅうぶん」と、足るを知ることも必要だ。



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