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2012.10.12

理不尽体験


精神科医の松崎一葉氏の心に響く言葉より…

どんなに努力しても叶わないこと、自分でコントロールできないことに直面した時、私たちはどう対処したらいいのか?

努力すれば報われる(報酬が得られる)という形態を、「努力―報酬モデル」と呼ぶ。

努力―報酬モデルは、「頑張れば結果に繋がる」という極めて単純明快なシステムだ。

「一生懸命勉強すれば成績が上がる」

「練習すればできるようになる」

「頑張って働けば給料が増える」

人は、この努力―報酬モデルが成立しているうちはストレスをあまり感じない。

大変な努力をしても報酬が得られればストレスは最小限で済む。

ところが、このシンプルな努力―報酬モデルが崩れてしまうと、人は非常にストレスを感じることになる。

この単純明快な努力―報酬モデルが崩壊した時、人は心を病むことが多い。

世の中は、必ず優れたほうが勝つとは限らない。

いい企画が必ずコンペで勝てるわけではない。

何らかの力が働いて、明らかに勝っているほうが落とされる。

それは論理では割り切れない理不尽さだ。

私が子供の頃、まだ日本社会にはコミュニティが存在していて、地域の繋がりはとても密接だった。

そして、ガキ大将の兄貴的な保護の下に、時に厳しく躾(しつ)けられ、成長できた。

そういった地域や集団での関わりの中で、理不尽さをいっぱい経験した。

子供のころ群れて遊ぶと、とにかく人に揉まれる。

そういった小学生の頃の年代を「ギャングエイジ」と言う。

宇宙飛行士に必要な資質、「同じ釜の飯体験」と「理不尽体験」を、ギャングエイジで得ることになるのだ。

理不尽なことをたくさん経験してきている人というのは、社会に出て、明らかに上手くいかないことがあっても「まあ、そんなもんだわな」と乗り越えることができる資質=『情けの力』を身につけている。

ギャングエイジの体験によって情緒的に理不尽さを享受できる『情けの力』が育つのだ。

『情けの力』幻冬舎


理不尽な体験は、小学校でできなくても、学校の運動部で経験できる。

たった1学年しか違わないのに、上級生に対する絶対服従や、下級生への理不尽な要求。

社会に出ても、運動部出身者が比較的に理不尽なことに耐えられるのは、この経験があるからだと言われる。

しかし、エリートコースをまっしぐらにきた人は、ちょっとした理不尽なことに、大きくストレスを感じることが多い。

長期間、同じメンバーで、宇宙という閉ざされた空間に滞在する、宇宙飛行士には逃げ場がない。

宇宙飛行士に必要な、「同じ釜の飯体験」とは、共同生活で、他者への共感や、「人に揉まれる」という人間関係を学ぶこと。

「理不尽体験」とは、不合理なことや理不尽なことに耐えられる情緒的余裕のことで、これがなければ、想定外のことに対処できなくなる、と松崎氏は言う。

人は、「情」という好き嫌いや、感性の力で動くのであり、論理や理屈で動くのではない。

人に揉まれ、理不尽な体験を通して、「情け」という、他人をいたわる気持や、思いやりの心を身につけたい。



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